兄弟の一人が実家に住み続けている相続|住み続ける・売るの決め方
実家に兄弟の誰かが住み続けている。この一点が加わるだけで、相続の話し合いは別の難しさを帯びます。空き家であれば「誰がいつ片づけるか」で始められた話が、ここでは「そこで営まれている生活をどう扱うか」という問いから始まるからです。しかも住んでいる本人は、鍵も権利証も保険証券も手元に持ち、雨漏りの履歴も近所との申し合わせも知っています。情報の大半が一人に集まっている一方で、権利は相続人全員に散らばっている。この非対称が、話をこじらせます。ここでは、磐田市・袋井市の実家をめぐる相談で実際に詰まりやすい順に、居住という事実と所有という権利を別の欄へ置くところから、無償で住んできた期間の扱い、居住者にしか出せない情報の集め方、売ると決めた場合の明渡しの段取り、そのまま住み続ける場合の名義と精算まで、五つに分けて整理します。どちらの結論を勧めるものでもなく、どちらを選んでも後戻りが少なくなるようにするための順番です。

まず結論
最初にするのは退去の相談ではありません。生活の話と所有の話を別の欄へ分け、居住の経緯と物件の書類を資料で押さえるところから始めます。無償で住んできた期間については、過去分の精算と今後分の負担を切り離し、今後分だけを先に文書にします。居住者にしか出せない書類と写真は、目的を共通資料の作成に限って三項目ずつ頼みます。売ると決めたら退去日から逆算し、売り出し前に転居の期限を書面にします。住み続けるなら、代償金の算定基準と支払い方法、相続登記の時期を同じ日に決めます。
住んでいる事実と、持っている権利を別の紙に置く
居住者のいる実家では、生活の話と所有の話が一つの文に混ざった瞬間に議論が止まります。この章では両者を別の欄へ分けたうえで、最初の一か月でそろえる事実を具体的に並べます。
空き家になった実家と、誰かが住み続けている実家では、詰まる場所がまるで違います。空き家なら、郵便物、伸びた草、雨漏り、近所からの通報といった管理の話から入れます。ところが人が暮らしている家では、その手前に「その生活をどう扱うか」という問いが立ちます。しかも相手は他人ではなく兄弟です。契約書もなければ、期限を書いた紙も残っていない。だからこそ最初の一手を誤ると、そのあと一年ぶんの時間を失います。生活の話と所有の話を同じ文の中で扱わない、と決めるところから始めてください。
権利の側から見ると、遺産分割が終わるまでの実家は、原則として相続人全員で共有している状態です。ここから二つの帰結が出ます。一つは、住んでいる人が単独で売ったり担保に入れたりはできないこと。もう一つは、他の相続人の側にも、話し合いだけで出ていってもらう強制力はないことです。どちらか一方に決定権があるように振る舞えば、必ず反発が返ってきます。誰が相続人にあたるか、持分がいくつかは戸籍で確定する事柄で、家族の記憶で決まるものではありません。この対称性を全員が理解しておくと、交渉の温度が下がります。
切り出し方は結果を左右します。「そろそろ売るから出てほしい」と最初に言えば、そこから先はすべて防御の会話になります。代わりに「売る売らないは今日は決めない。家の書類と費用の実態を一枚にまとめたい」と伝えてください。住んでいる側の不安は、たいてい「いつ追い出されるのか」の一点に集中しています。期限の話をしない集まりだと先に宣言するだけで、しまい込まれていた資料が出てきます。他の相続人の不安は逆に「自分の知らないところで話が進むこと」です。両方の不安に同時に答えるのが、その一枚の役割です。
居住の経緯は、記憶ではなく資料で押さえます。いつから住み始めたか、きっかけは何だったか(親の介護、離婚、転職、自宅の建て替え)、住民票を移しているか、電気・ガス・水道の契約名義は誰か、家賃にあたるお金を渡していたか、渡していたなら金額と期間と方法はどうか。改修や設備の入れ替えをしたなら、時期と金額と支払った人。これらは通帳の記録、領収書、工事の見積書、公共料金の請求書で裏が取れます。口頭の「たしか十年くらい前から」は後で必ず食い違います。年と月まで書ける項目は、年と月まで書いてください。
物件側の資料は、住んでいない相続人でも自分で取りに行けます。登記事項証明書は法務局の窓口でもオンライン請求でも取得でき、手数料は請求方法によって異なります。公図と地積測量図も同じ窓口です。固定資産税の課税明細は毎年の納税通知書に同封されており、名寄帳や評価証明書は物件所在地の市町の資産税担当で、相続人であることを示す戸籍などを添えて請求します。磐田市・袋井市とも、必要書類と本人確認の方法を事前に電話で確かめてから出向けば一度で済みます。火災保険の証券だけは、たいてい家の中にあります。
期限のあるものは先に把握します。相続登記には申請義務が設けられており、不動産を相続したと知った時点を起算日として、原則三年以内に申請する扱いです。遺産分割が成立した場合には、成立の日を起算日とする別の期限も置かれています。話し合いが長引きそうなときは、相続人であることを申し出る簡易な登記で義務に対応する道が用意されています。制度の内容と必要書類は法務省の案内で確認し、自分の場合の当てはめと実際の申請は司法書士へ相談してください。相続税の申告が必要な場合の期限は別に走るため、税理士にも早めに当たっておくと安全です。
税と保険の扱いも、人が住んでいるかどうかで変わります。土地の固定資産税には住宅用地の特例があり、住宅が建っていて居住の実態がある間は軽減された課税が続くのが一般的です。他方、相続した被相続人の居住用家屋を売ったときの特例、いわゆる空き家の特例は、相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたことなどが要件とされており、同居していた相続人がそのまま住み続けている家では原則として対象外になります。ここは手取りに直結するので、売却を考え始めた時点で国税庁の説明を読み、適用の可否は税理士へ確認してください。
この章の到達点は結論ではなく、一枚の紙です。左から順に、確認できた事実、それぞれの希望、心配していること、まだ確かめていないことの四欄。「昨年から屋根の一部で雨漏り」は事実、「あと三年はここから通勤したい」は希望、「修繕費を一人で抱えることにならないか」は心配、「浄化槽か公共下水か分からない」は未確認です。欄が変われば扱いも変わります。心配の欄に入った項目は、反論すべき相手ではなく、調べれば小さくできる作業に変わります。この紙を全員が同じ形で見ている状態を、最初の一か月で作ってください。
- 居住開始の年月・きっかけ・住民票の異動の有無を資料で確認する
- 電気・ガス・水道・電話の契約名義と、直近一年の支払者を控える
- 登記事項証明書・公図・課税明細・火災保険証券の四点を先にそろえる
- 話し合いの記録を四欄(事実/希望/心配/未確認)で作り、未確認を空欄にしない
図1最初の一か月で、退去の話をせずに進める順番
無償で住んできた期間を、過去分と今後分に切り分ける
「今まで家賃を払っていないのだから」という一言は、話し合いを一気に止めます。この章では無償で住む関係の一般的な考え方と、賃料相当額の調べ方、そして過去と今後を分けて決める段取りを扱います。
相続が起きて最初の集まりで、この言葉はよく出ます。十数年ぶんの家賃を頭の中で掛け算した金額が口に出た瞬間、対話は終わります。壊れるのは金額の大きさによってではありません。遡って請求されるという構図そのものが、住んできた側から見れば、これまでの生活が丸ごと否定されたように響くからです。実際には、親の身の回りの世話をしていた、家の修繕を負担していた、通院に付き添っていたという事情が背景にあることも多い。順番として、過去に遡る精算の話は、事実がそろうまで机に出さないほうが結果的に早く進みます。
親子の間で家を無償で使わせる関係は、法律上は使用貸借として整理されるのが一般的です。契約書がないのは珍しいことではなく、固定資産税や光熱費の実費相当だけを負担していた場合も、原則として賃貸借ではなく使用貸借と評価されることが多いとされています。ただし、渡していた金額が近隣の家賃に近い水準であれば、評価が変わる余地もあります。どちらにあたるかで、その後の扱いが変わってきます。契約の性質そのものの判断は、実際に払っていた金額と経緯を示したうえで弁護士に確認してください。
貸していた親が亡くなった場合の扱いも、あらかじめ知っておくと落ち着いて話せます。使用貸借は、借りている側が亡くなると終了するのが原則とされる一方で、貸している側が亡くなったことだけをもって当然に終わるわけではない、という整理がされています。つまり、親が亡くなったその日から住んでいる兄弟が不法占拠になる、というものではありません。相続人が貸主の立場を引き継いだ状態が続くと考えるのが出発点です。ここを誤解したまま「今日から出てもらう」と告げると、話が一段こじれます。
さらに、遺産分割が終わるまでの間について、被相続人と同居していた相続人には引き続き無償で使ってよいという合意があったと推認する、という考え方が裁判例で示されたことがあります。これは常にそうなると決まっているものではなく、同居の経緯、家の使われ方、他の相続人との取り決めの有無といった個別の事情で結論が変わります。だからこそ、家族の話し合いの中で「払う義務がある・ない」を断定し合っても平行線になります。争いになりそうなら、事実関係を時系列にまとめて弁護士へ渡すのが最短です。
無償で住んでいたこと自体が特別受益にあたり、分け方に反映されるべきではないか、という議論も出ます。この点は考え方が一つに定まっておらず、居住の経緯や親の意向によって扱いが分かれます。家族だけで結論を出すと、後になって蒸し返される種になります。論点があることと、判断は専門家に委ねることを全員で確認し、保留と明記して次へ進んでください。
金額の見当をつけたいときは、賃料相当額を幅で押さえます。手順は単純です。実家と同じ市内で、築年数、延床面積、駐車台数、最寄りの生活動線が近い戸建て賃貸の募集を三件拾い、月額を並べます。条件がそろわないときは、そろわない項目を注記します。不動産会社に賃料査定を頼むときは「相続の話し合いで使う参考値で、貸し出す予定は今のところない」と最初に伝えてください。目的を伝えれば、根拠にした事例まで書いた資料が出てきます。一社の数字だけを確定額として扱わないのが原則です。
同時に、実際に誰が何を払ってきたかを棚卸しします。固定資産税・都市計画税、火災保険料、屋根や給湯器の修繕費、浄化槽の保守点検料、自治会費、水道と電気のうち共用にあたる部分。裏付けは通帳の引き落とし記録、振込明細、領収書です。遠方の相続人が負担したもの、たとえば親の入院費の立て替えや帰省時の修繕費も、同じ表の別の列に入れます。片方の負担だけを数える表は、それを見た瞬間に相手が席を立ちます。表の目的は請求ではなく、偏りの実際の大きさを全員が同じ数字で見ることです。
そのうえで、過去分と今後分を切り離します。まず今後分だけを決めてください。たとえば「本日から遺産分割が成立する日まで、固定資産税と火災保険料と日常の小修繕は居住者が負担し、屋根や外壁など建物本体の修繕は相続人全員で協議のうえ負担する」といった内容です。これを一枚の書面にして、日付と全員の署名を入れます。過去分については「本日時点では合意していない。分割協議の中で扱う」と書き添えて残します。今後の負担が固まるだけで、話し合いに使える時間が一気に増えます。
- 「これまでの家賃分」を、事実がそろう前に金額で口に出さない
- 渡していたお金の有無・金額・期間・方法を、通帳で裏付ける
- 賃料相当額は募集事例三件の幅で押さえ、一社の数字を確定額にしない
- 今後の費用負担だけを先に書面化し、過去分は保留と明記する
| 費目 | 確認する期間 | 裏付けになる資料 | 書き方の注意 |
|---|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 直近3〜5年 | 納税通知書、口座の引き落とし記録 | 納税義務者と実際の支払者が違うことがある |
| 火災保険料 | 契約期間全体 | 保険証券、保険料の領収証 | 満期日と、居住の有無を保険会社へ伝えた日も控える |
| 建物の修繕費 | 直近10年 | 工事の見積書と請求書、施工業者名 | 屋根・外壁・給湯器は金額が大きく、争点になりやすい |
| 浄化槽・井戸・受水槽の維持費 | 直近3年 | 保守契約書、点検記録 | 公共下水に接続済みかどうかも同時に確認する |
| 親の生活費・介護費の立て替え | 同居開始以降 | 通帳、施設の請求書、領収書 | 家の費用と混ぜず、別の行として残す |
| 遠方の相続人が出した費用 | 同居開始以降 | 振込明細、交通費の記録 | 帰省しての作業時間は金額と別の列に書く |
居住者にしか出せない情報を、頼み方から設計する
実家の情報の半分は、家の中にあります。この章では、住んでいる人だけが出せる書類と写真を、関係を壊さずに集めるための頼み方と、集まらなかったときの残し方を扱います。
住んでいない相続人が自分で取れる資料には限りがあります。登記や課税の情報は窓口で取れても、権利証がどこにあるか、屋根をいつ直したか、隣との間で何を申し合わせてきたかは、家の中にいる人しか知りません。ここに情報の非対称が生まれます。厄介なのは、この非対称が「隠している」と受け取られやすいことです。実際には、どこに何があるか本人も把握していない、という場合が最も多い。まず前提として、出てこない理由を悪意に置かないでください。頼み方の設計だけで、出てくる量はかなり変わります。
頼むときは、目的と範囲と量の三つを絞ります。目的は「共通資料を作るため」であって、売却の準備ではない。範囲は今回の三項目まで。量は一度に三つ、次は二週間後。この形にすると、頼まれた側の負担が見通せます。逆に「あるもの全部送って」と伝えると、どこから手を付ければよいか分からず、そのまま止まります。返事が来ない期間が続くと、他の相続人の側にも不信が積もる。三項目ずつという刻み方は、関係を保ったまま前へ進めるための現実的な単位です。
家の中にしかない書類には、決まった顔ぶれがあります。登記識別情報通知または権利証、火災保険の証券、確定測量図や境界の覚書、建築確認済証と検査済証、増改築や外壁工事の契約書、浄化槽の保守点検契約書、井戸のポンプや受水槽の書類、太陽光発電の売電に関する契約書、農地であれば耕作を委託している相手との取り決め。仏壇や墓地に関する書類が同じ引き出しに入っていることもあります。まずはこの一覧を渡して、あるものに丸を付けてもらうところから始めてください。
写真は、撮る場所を指定すると精度が上がります。建物の外周を四面、道路と敷地の接している部分、境界の杭やプレート、雨漏りしている天井、屋根を遠くから写した一枚、床下点検口の中、給湯器とエアコンの型番と製造年が写った銘板、電気の分電盤、水道メーターの周り。加えて、家の中の物の量が分かる引きの写真を各部屋一枚。撮影日が分かるように、スマートフォンの日付を確認してもらいます。この十数枚があるだけで、遠方の相続人が現地を見ないまま検討できる範囲が広がります。
近隣との関係も、住んでいる人しか持っていない情報です。私道を通って出入りしているのか、その私道の持ち主は誰か。用水路の清掃や草刈りの当番があるか。自治会の役が回ってくるか。隣地の樹木が越境していないか、あるいは自宅の木が越境していないか。農地であれば誰に耕作を頼んでいるか。掛塚のように道が細く大型車の進入が難しい地区では、工事車両や引越しトラックが入れるかどうかが、後の費用に直結します。匂坂の周辺で農振農用地に指定されている土地かどうかも、早い段階で確かめておく事柄です。
遠州の気候にまつわる履歴も聞き出しておきます。冬の空っ風で雨樋やテレビアンテナが傷むこと、台風のたびに飛来物で外壁やカーポートが欠けること、池田周辺のように天竜川の堤防に近い立地では水害への備えをどう考えてきたかということ。笠原の茶園に隣接する家なら、農作業の時期の出入りについて申し合わせがあるかもしれません。これらは「何年の台風で何を直したか」という形で、年と工事内容のセットにして書き出してもらうと、後の修繕計画や買主への説明にそのまま使えます。
出てこない情報は、無理に埋めないでください。「未確認」と書いて残し、次に何をすれば分かるかを添えます。出せない理由を聞くと、探しても見つからない、捨てた記憶がある、見せたくない、の三つに分かれます。見つからない場合、火災保険の証券は保険会社へ連絡すれば内容の再確認や再発行の相談ができます。一方で、権利証や登記識別情報通知は原則として再発行されず、紛失した場合には司法書士による本人確認情報の作成など別の手続きで補う扱いになります。この違いは早めに知っておくと、売却の段取りで慌てずに済みます。
集めた情報は、出典・確認日・確認した人の三つを添えて共有します。「前面道路の幅は市の資料で確認、八月十二日、次男」「雨漏りは現地写真、八月十五日、長女」という形です。同じ紙に、まだ確認していない項目も残したまま並べます。ただし、共有する範囲は必要な人までにとどめてください。戸籍や通帳の写しを親族のグループチャットへそのまま流すと、後で回収できません。原本の所在と、写しを誰にいつ渡したかを別に控えておくと、この種の心配が減ります。
- 頼むのは一度に三項目まで。次の依頼は二週間後と決めておく
- 権利証・保険証券・測量図・確認済証の所在を、一覧に丸を付けて確認する
- 写真は撮影日入りで、外周四面・境界・雨漏り・設備の銘板を指定して頼む
- 出てこない項目は未確認と書き、再発行できるものとできないものを分ける
図2実家をめぐって、誰が何を持ち、誰が何を決められるか
売ると決めたときの、退去日から逆算する段取り
売却の日程は、買主の都合ではなく退去日から逆算して組みます。この章では、登記から引渡しまでの順番と、転居先・残置物・費用の現実的な見積り方を扱います。
全員が売る方向で一致したら、順番は決まっています。遺産分割協議書をまとめ、相続登記で名義を相続人へ移し、そのうえで媒介契約を結び、販売活動を経て売買契約、最後に決済と引渡しです。名義が亡くなった親のままでは売買の決済ができないため、登記が実質的な出発点になります。戸籍の収集から登記完了までは、必要な戸籍の量や相続人の人数によって幅がありますが、余裕を見ておく工程です。司法書士へ依頼する場合は、必要書類の一覧と見込みの期間を最初に確認してください。
居住中のまま売り出すか、空にしてから売り出すかで、進め方が変わります。居住中のまま売る場合、内見のたびに在宅の調整が要り、生活の匂いや家財の量が印象に影響します。買主から見れば、いつ空になるかが分からない物件は判断しにくい。空にしてから売り出す場合は、その間の固定資産税の扱いや、住宅用地の特例が外れる可能性、火災保険の契約区分が変わる可能性を先に確認しておく必要があります。どちらを選ぶにせよ、退去の見込み時期を先に決めていないと、この判断自体ができません。
したがって、売り出す前に退去日を書面にします。「引渡しの何か月前までに退去する」ではなく、できれば具体的な年月で書きます。売買契約から引渡しまでの期間を長めに設定して調整する方法もありますが、買主の住宅ローンの実行時期や、買主自身の転居予定に縛られるため、何か月も待ってもらえるとは限りません。決済後に短期間だけ残る、いわゆる引渡し猶予も、実務では数日から一週間程度で扱われることが多く、長期の居住を前提にできるものではありません。時間は売り出し前にしか作れない、と考えてください。
転居先の確保は、想像より時間がかかります。単身で年齢が高い場合、保証会社の審査や連帯保証人の確保でつまずくことがあります。初期費用は、敷金・礼金・仲介手数料・保証委託料・前家賃・火災保険料を合わせると、月額家賃の数か月分になるのが一般的で、物件によって幅があります。加えて引越し費用と、家電や家具の買い替えが乗ります。磐田市や袋井市で職場や通院先の近くに条件を絞ると、選べる物件はさらに限られます。売却を検討し始めた時点で、並行して部屋探しを始めておくのが現実的です。
残置物の処分も、金額が読みにくい項目です。費用は間取りではなく物の量で決まるため、同じ広さでも数倍の差が出ます。物置や納屋、農機具、古い箪笥、ピアノ、車やバイクがあると、別扱いの費用が乗ります。見積りを取るときは、複数の業者に同じ日に同じ範囲を見せて、含まれる作業と含まれない作業を書面でそろえてください。仏壇、位牌、写真、手紙、賞状といったものは、金額の話とは別に、誰がどこへ引き取るかを先に決めておくと、当日の作業が止まりません。
居住していた兄弟の転居費用や当面の生活費を、売却代金の配分で調整することもあります。その場合は、分け方の合意とは別に「転居に要する費用として売却代金からいくらを先に充てる」と協議書へ具体的に書きます。口約束にすると、決済後に金額の記憶が食い違います。誰がいつ何のために受け取る金なのかを、費目と上限額の形で残してください。領収書の提出を条件にするかどうかも、その場で決めておくと後の説明が要りません。文言の作り方は、司法書士や弁護士に確認しながら固めるのが安全です。
税の扱いは、売る前に確かめる項目です。相続した被相続人の居住用家屋を売ったときの特例は、相続開始の直前に被相続人が一人暮らしだったことなどが要件とされているため、相続人がそのまま住み続けている家には原則として使えません。一方、居住していた相続人が名義を取得したうえで、自分の住まいとして売る場合には別の取扱いを検討する余地があります。どの制度をどの順番で見るかで手取りが変わるので、名義をどうするかを決める前に、国税庁の説明を読んだうえで税理士に相談してください。
よくある行き違いを二つ挙げます。一つは、媒介契約を結んだあとに転居先が決まらず、内見の日程調整のたびに空気が悪くなる場面。もう一つは、早く手放したい人と、時間をかけて高く売りたい人が同じ物件で綱引きになる場面です。どちらも、売り出し価格と、これ以下では売らないという下限、そして期間内に決まらなかった場合にどうするかを、売り出す前に文書にしておけば避けられます。三か月ごとに見直す、という取り決めを入れておくと、値下げの相談が個人攻撃になりません。
| 逆算の位置 | やること | 同時に決めておくこと |
|---|---|---|
| 退去のかなり前 | 戸籍を集め、遺産分割協議書をまとめる | 誰が名義を取得するか、費用は誰が立て替えるか |
| 退去の前 | 相続登記を申請し、完了を待つ | 転居先探しを並行して開始する |
| 退去の前 | 残置物の見積りを複数社から取る | 仏壇・位牌・写真の引き取り先 |
| 退去日 | 鍵と書類の所在を一覧にして引き継ぐ | 郵便の転送届、公共料金の停止と名義変更 |
| 退去の後 | 媒介契約を結び、売り出す | 売り出し価格と、これ以下では売らない下限 |
| 契約から決済まで | 決済日と引渡しの条件を確定する | 残っている家財があれば、誰がいつ片づけるか |
住み続けるなら、名義と精算を同じ日に決める
住み続けるという結論は、それ自体では何も解決しません。名義をどうするか、他の相続人へ何をいつ渡すか、登記をいつ入れるかを、同じ日に一組で決めて書面にします。
住み続ける場合の選び方は、大きく三つです。一つ目は、住んでいる人が単独で名義を取得し、他の相続人へ代償金を渡す方法。二つ目は、共有のまま置く方法。三つ目は、住んでいる人と他の相続人との間で賃貸借の関係に切り替え、家賃を分配する方法です。多くの家族が二つ目を選びますが、それは選んだというより、決めなかった結果としてそうなっている場合がほとんどです。三つの違いを一度並べてから決めるだけで、十年後の面倒がかなり減ります。
代償金を採るなら、最初に評価の基準を合意します。相続税評価額、固定資産税評価額、不動産会社の査定価格、不動産鑑定士の鑑定評価では、同じ家でも金額が変わります。どれが正しいという性質のものではなく、何を使うかを全員で決める性質のものです。決めたら、基準の名前と、その金額の時点、根拠の資料名を協議書へ書き込みます。「時価で」とだけ書いて署名すると、支払いの段になって解釈が割れます。査定を使う場合は、複数社の数字を並べ、どれを採ったかまで残してください。
代償金を一括で用意できないことは珍しくありません。方法は三つあります。分割払いにするなら、支払回数、各回の金額、期日、遅れたときの扱いを決め、公正証書にしておくと後の請求が確実になります。土地に余裕があれば、一部を分筆して売り、その代金を充てる方法もありますが、分筆できるかどうかは接道や面積の条件次第で、測量と登記の費用も要ります。金融機関からの借入を検討する場合、相続に伴う代償金の資金として貸してもらえるかは金融機関ごとに扱いが違うため、事前に相談してください。
共有のまま置く選択には、後から効いてくる負担があります。将来売ろうとしたときに共有者全員の同意が要ること。共有者の誰かが亡くなると持分がさらに分かれ、関係者が増えて連絡が難しくなること。持分だけが第三者へ渡る可能性があること。固定資産税の納税通知書は代表者一人に届くため、実際の負担が偏りやすいこと。どうしても共有で置くなら、せめて代表者、費用の負担割合、見直す時期の三つを書面にして、全員が同じ写しを持っておいてください。
賃貸借に切り替える方法は、居住を続けながら他の相続人へ継続的に還元する形になります。家賃の水準、修繕をどちらが負担するか、契約の期間と更新、滞納したときの扱いを契約書に落とし込みます。受け取る側には所得として申告が必要になる場合があり、扱いは税理士に確認してください。親族間の賃貸は、金額の設定によって税務上の見方が変わることもあります。関係が近いほど契約書を省きたくなりますが、近いからこそ、書いたものがないと数年後に食い違います。
どの方法を選んでも、相続登記は先送りしないでください。申請義務の起算日は、不動産を相続したと知った時点と、遺産分割が成立した時点の二つが置かれており、いずれも原則三年という期間で管理されています。話し合いが長引いて期限が近づくときは、相続人であることを申し出る簡易な登記でしのぐ方法があります。制度の内容は法務省の案内で確認できますが、自分の場合にどの手続きが該当するか、必要な戸籍は何かは、司法書士に見てもらうのが確実です。
住み続ける決断をするときは、十年先を一度だけ見ておきます。建物は今のうちに何年目か、屋根と外壁と給湯器の更新時期はいつ頃か。住んでいる本人が高齢になったとき、この家で暮らし続けられるか。そして、その時になって売れる家かどうか。前面道路が狭く工事車両が入りにくい、市街化調整区域で建て替えに条件がある、農地が混ざっているといった事情は、時間が経っても消えません。むしろ、そのときに調べておけば選べた選択肢が、十年後には残っていないことがあります。今の段階で確認しておく価値があります。
最後に、合意書へ書く項目を並べておきます。誰が名義を取得するか。他の相続人へいくらを、いつまでに、どの方法で渡すか。それまでの間、固定資産税・火災保険料・修繕費を誰が負担するか。売却しないという約束に期限を付けるか、付けるならいつ見直すか。事情が変わったとき、誰がどのように再協議を申し入れるか。この五つが書かれていれば、後から加わった配偶者や次の世代にも経緯が伝わります。署名は全員分をそろえ、同じ写しを各自が保管してください。原本の所在と保管者も末尾に一行で書いておくと、十年後に探す手間が消えます。書面の形式と文言は、司法書士や弁護士に確認したうえで整えてください。
- 代償金の評価基準(相続税評価・固定資産税評価・査定・鑑定)を先に決める
- 分割払いにするなら回数・期日・遅延時の扱いを書き、公正証書を検討する
- 共有のまま置くなら、代表者・負担割合・見直し時期の三つを書面に残す
- 相続登記の期限を確認し、長引くなら申告制の簡易登記が使えるか司法書士へ聞く
図3住み続ける案を、資金と時期の二軸で仕分ける
このページ固有の確認メモ
ここからは「兄弟の一人が実家に住み続けている相続|住み続ける・売るの決め方」で特に確認したい内容を、事実、避けたい判断、手元資料に分けて示します。すべてを一度に終える必要はありません。確認できた項目には日付と根拠を添え、分からない項目には担当者と再確認日を付けてください。家族が別々の時間に作業しても、同じ一覧へ戻れる状態を目指します。
確認しておく事実
この欄は、方針を決める前に共有したい事実です。家族の記憶だけで確定せず、通知書、契約書、公式ページ、撮影日が分かる写真など、確認に使った根拠を隣へ書きます。該当しない項目も削除せず「該当なし」とした理由を残すと、後から同じ調査を繰り返さずに済みます。
- 生活の話と所有の話を、同じ文の中で扱わない
- 退去の話をしないと先に宣言すると、家の中の資料が出てくる
- 居住の経緯は記憶ではなく通帳と領収書で押さえる
- 過去分の精算は保留にし、今後の費用負担だけ先に書面化する
- 賃料相当額は募集事例三件の幅で見る。一社の数字を確定額にしない
- 書類の依頼は一度に三項目まで。次は二週間後と決めておく
- 売るなら退去日から逆算する。時間は売り出し前にしか作れない
- 住み続けるなら、名義・代償金・登記を同じ日に決める
避けたい判断
この欄に当てはまる可能性があるときは、契約や処分をいったん止めます。一般例を対象の家へ当てはめたのか、資料で確かめたのかを区別し、不足情報を質問へ直してください。法務、税務、測量、建物、行政など別分野の判断が必要なら、回答できる相談先へ切り分けます。
- 最初の連絡で「売るから出てほしい」と切り出す
- これまでの家賃分を掛け算した金額を、事実がそろう前に口に出す
- 書類が出てこないことを、隠していると受け取る
- 片方の負担だけを並べた表を作って見せる
- 「時価で」とだけ書いた協議書に署名する
- 共有のまま置き、代表者も見直し時期も決めない
- 媒介契約を結んでから転居先を探し始める
- 戸籍や通帳の写しを、親族のグループチャットへそのまま流す
手元で探すもの
見つけた資料には名称、発行年、原本の保管者を記します。古い資料も経緯を知る手掛かりになるため、最新版と違うだけで捨てないでください。見つからない場合は空欄にせず、再取得できるか、誰に所在を尋ねるか、いつ再確認するかを決めると次の相談準備になります。
- 相続人の範囲と持分(戸籍で確定、未連絡はそのまま記載)
- 居住開始の年月・きっかけ・住民票の異動の有無
- 電気・ガス・水道の契約名義と直近一年の支払者
- 渡していた金銭の有無・金額・期間・方法と、その裏付け
- 登記事項証明書、公図、地積測量図の有無
- 固定資産税の課税明細と、直近三〜五年の実際の支払者
- 火災保険の証券番号・満期日・居住状況を伝えた日
- 権利証または登記識別情報通知の所在
- 建築確認済証・検査済証・増改築の契約書の有無
- 浄化槽か公共下水か、井戸や受水槽の維持契約
- 前面道路の幅と、工事車両が進入できるか
- 近隣との申し合わせ(私道、用水、越境、耕作の委託)
- 各人の希望(住み続ける期間・負担できる額・譲れない一点)
- 次に確認する三項目と、担当者と期日
よくある質問
実家に住んでいる兄弟に、出ていってもらうことはできますか
遺産分割が終わるまでの実家は原則として相続人全員の共有で、話し合いだけで退去させる強制力は誰も持っていません。逆に、住んでいる人が単独で売ることもできません。まず居住の経緯と費用の実態を資料で押さえ、退去を求める必要が本当にあるかを検討してください。住んでいる関係を法律上どう評価するか、明渡しを求められるかの判断は、弁護士に事実関係を渡したうえで聞く事柄です。
今まで家賃を払っていない分を、精算してもらえますか
親子間で無償で住んでいた関係は使用貸借として整理されるのが一般的で、遺産分割が終わるまでの間について無償使用の合意を推認する考え方が裁判例で示されたこともあります。ただし個別の事情で結論が変わるため、家族の話し合いで断定しないでください。過去分は保留と明記し、今後の費用負担だけを先に書面にすると前へ進みます。
住み続けている兄弟が、書類を出してくれません
多くは隠しているのではなく、どこに何があるか本人も把握していない状態です。目的を共通資料の作成に限り、一度に三項目までに絞って頼んでください。登記事項証明書や公図、名寄帳は住んでいない相続人でも自分で取得できます。それでも出てこない項目は「未確認」と書いて残し、空欄にしないことが大切です。
住み続ける場合、空き家の特例は使えますか
相続した被相続人の居住用家屋を売ったときの特例は、相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたことなどが要件とされており、同居していた相続人が住み続けている家では原則として対象外になります。適用の可否と、ほかに使える取扱いがあるかは、名義をどうするか決める前に国税庁の説明を読んだうえで税理士へ確認してください。
代償金を用意できません。ほかに方法はありますか
分割払いにして公正証書を作る、土地の一部を分筆して売った代金を充てる、金融機関からの借入を検討する、という三つが実務でよく検討されます。分筆できるかは接道や面積の条件次第で、測量と登記の費用も要ります。借入の可否は金融機関ごとに扱いが違うため、条件を詰める前に相談しておくと段取りが崩れません。
話し合いが長引いています。登記は後回しでよいですか
相続登記には申請義務があり、不動産を相続したと知った時点と、遺産分割が成立した時点のそれぞれを起算日として、原則三年という期間で管理されています。分割がまとまらないときは、相続人であることを申し出る簡易な登記が用意されています。制度の内容は法務省の案内で確認し、自分の場合の当てはめは司法書士へ相談してください。
公式出典・確認先
制度や受付条件は変わることがあります。最終判断の前に、リンク先の最新情報と担当窓口を確認してください。
- ふじがおか実家カルテ|住所で分かること(fudosan.atawi.link)カルテで整理する範囲と、現地・専門家確認が必要な範囲を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続登記の申請義務化について(www.moj.go.jp)相続登記の基本的義務、遺産分割成立後の追加的義務、経過措置を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続人申告登記について(www.moj.go.jp)遺産分割がまとまらない場合の申告登記と必要書類を確認確認日:2026-08-27
- 国税庁|被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(www.nta.go.jp)適用期間、対象家屋、相続人数による控除限度額等を確認確認日:2026-08-27

