施設入居は一時的?実家を空き家にする判断を急がないための確認表
親が施設に入ったあと、いちばん多い相談は「売るべきか」ではなく「まだ決められない」です。数か月で戻れるのか、そのまま生活の場になるのかが分からないまま、実家だけが無人になっていく。この状態は放置とは違います。決めないことを選ぶなら、決めないまま安全に持ちこたえる設計が要ります。このページでは、戻れる可能性を四つの材料で見立て、一時的な無人と長期の無人で扱いが変わるものを洗い出し、戻る前提を残す場合の最低限を決め、前提を切り替える合図を先に書き、保留のあいだに進めてよい調査と結んではいけない契約を仕分けます。磐田市・袋井市・森町での実務を前提に、家族が同じ一枚を見て話せる形にしていきます。

まず結論
保留は悪い状態ではありません。困るのは、見立てが家族ごとにばらばらのまま時間が過ぎることです。まず施設の種類、要介護認定、医療の条件、費用の持ち時間という四つの材料で見立てをそろえる。次に、火災保険の区分や譲渡の特例のように、時間が経つと選べる道が減るものだけを先に洗い出す。戻る前提を残すなら、きれいにするのではなく数日で暮らし始められる状態を保つ。そのうえで、前提を切り替える合図を六つ書いておく。調べる作業は保留中でも進められますが、後戻りできない契約は合図が来るまで結ばない。この順番なら、急がずに済みます。
「戻れるかどうか」は感触で決めず、四つの材料で見立てる
この章では、在宅復帰の見込みを希望や不安ではなく、施設の目的、要介護認定、医療の条件、費用の持ち時間という四つの材料で見立てます。目的は、結論を出さないまま家の管理方針だけを決められる状態にすることです。
戻れるかどうか分からない、という状態そのものは悪いものではありません。困るのは、その見立てが家族ごとにばらばらのまま時間だけが過ぎることです。長男は半年で戻ると思い、次女はもう難しいと考えている。どちらも根拠を口に出していないので、家の話題が出るたびに噛み合わず、その日は何も決まりません。見立ては当たり外れを競うものではなく、同じ材料を見て同じ言葉で書くための作業です。
一つ目の材料は、入った施設が何を目的とした場所かです。介護老人保健施設は在宅復帰と在宅療養の支援を目的とする施設で、入所を続ける必要があるかを定期的に検討する運用が一般的です。特別養護老人ホームは常時介護が必要で在宅生活が難しい方を対象とし、原則として要介護3以上とされています。介護医療院、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、認知症対応型共同生活介護では、契約の形も退去の条件も施設ごとに異なります。判断材料は入所契約書と重要事項説明書に書かれているので、支援相談員や生活相談員に該当箇所を指してもらうのが早道です。
二つ目は要介護認定です。認定には有効期間があり、状態が変われば期間の途中でも区分変更を申請できます。見立てに使いたいのは介護度の数字よりも、認定調査票と主治医意見書に書かれた具体的な記述のほうです。歩行、立ち上がり、排泄、入浴、夜間の見守り。在宅で暮らせるかどうかは、このうちの一つか二つで決まることが多く、なかでも夜間に一人でトイレへ行けるかどうかは家族の負担に直結します。認定結果の通知書は捨てずに保管してください。後になって税の要件を確かめる場面で、入所した時期の状態を示す資料になることがあります。
三つ目は医療の見通しです。ここは聞き方を変えるだけで得られる情報が変わります。「戻れますか」と尋ねると、多くの場合は断定を避けた答えが返ってきます。代わりに「何ができるようになれば自宅で暮らせますか」「今の状態で自宅へ戻ると、いちばん危ないのはどこですか」と条件の形で聞いてください。退院前カンファレンスやリハビリの目標を決める場は、その質問をするのに向いています。返ってきた言葉は短くて構わないので、聞いた日付と話した人の職種を添えて書き留めます。
四つ目はお金です。施設の月額費用、本人の年金と収入、預貯金の残高、そして実家を無人のまま持ち続ける年間費用。この四つを並べて、預貯金が何年もつのかを一度だけ計算します。多くの家庭がここをあいまいにしたまま話し合いを始めるので、感情の議論から抜け出せません。金額が出ると、戻れる可能性とは別に、いつまで保留を続けられるのかという時間の枠が見えます。枠が見えれば、慌てて手放す必要も、気づかないまま持ち続ける必要もなくなります。
四つの材料は、そろえた時点で固定するものではありません。半年後にはどれも変わっている可能性があります。だから見立てには必ず次に見直す日を付けます。入所した直後は三か月後、状態が落ち着いてきたら半年ごとというように、間隔を少しずつ伸ばしていく形が現実的です。見直す日を決めてしまえば、その日までは家のことを考えなくてよくなります。保留を続けるためにこそ期限を置く、という考え方です。
本人が話した内容は、家族の解釈と混ぜずに、言葉のまま日付を付けて残します。「春になったら帰る」と「この家は売らないでほしい」は別々の願いです。前者は在宅復帰の見立てに関わり、後者は財産の扱いに関わります。まとめて「本人は戻りたがっている」と要約してしまうと、後で兄弟の間で意味が食い違います。なお、本人に契約の判断ができるかどうかを家族だけで決めることはできません。意思能力や代理の権限については、司法書士や弁護士へ確認してください。
記録の様式は凝らなくて構いません。四つの材料を縦に並べ、横に「今わかっていること」「その根拠」「次に確認する日」の三列を置いた紙が一枚あれば足ります。面会や会議に行ける人が限られる家庭では、聞いた人がその紙に書き足していく形にしてください。
- 入所した施設の種類と、入所契約書に書かれた退去や更新の条件を確認する
- 認定調査票と主治医意見書のうち、夜間の見守りと排泄の記述を読む
- 医療職には「戻れますか」ではなく「何ができれば戻れますか」と聞く
- 施設費用と実家の年間維持費を足し、預貯金が何年もつかを一度計算する
- 本人の発言は要約せず、日付と話した場面を添えてそのまま書き留める
| 施設の種類 | 在宅復帰の位置づけ | 確認する相手・書類 |
|---|---|---|
| 介護老人保健施設 | 在宅復帰と在宅療養の支援が目的。入所継続の必要性を定期的に検討する | 支援相談員、入所契約書 |
| 特別養護老人ホーム | 在宅生活が難しい方の生活の場。原則として要介護3以上が対象 | 生活相談員、市の介護保険担当 |
| 介護医療院 | 長期の療養と生活の場を兼ねる。医療の必要度が高い場合の受け皿 | 医療相談室、担当の医師 |
| 介護付き有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅 | 契約の形と費用の幅が広く、退去の条件も施設ごとに異なる | 重要事項説明書、運営事業者 |
| 認知症対応型共同生活介護 | 地域密着型のサービスで、原則として所在市町村の住民が対象 | 市の介護保険担当、ケアマネジャー |
図1戻れる可能性を見立てる四つの材料と、見直しの置き方
「しばらく無人」と「戻らない見通し」で、保険・税・届出の扱いが分かれる
この章では、無人の期間が延びると扱いが変わるものを集めました。決めていないつもりでも、期限を過ぎれば選べる道は自動的に減ります。減る前に一覧にしておくのが目的です。
判断を保留していても、制度の側の時計は止まりません。厄介なのは、長期側の扱いへ移る変化のほとんどが通知なしで進むことです。保険の区分、住民票、郵便の転送、譲渡の特例。家族が気づくのは、必要になった場面で間に合わないと言われたときです。だからこの章では、期限があるものだけを先に抜き出します。
最初に確認するのは火災保険です。住宅用の契約は、人が住んでいることを前提に組まれていることが多く、常時居住していない建物になると契約上の区分や告知すべき事項の考え方が変わる場合があります。ここで大事なのは、聞き方です。「空き家になりました」とだけ伝えると一般論の回答しか返りません。証券番号を用意したうえで、本人は施設にいて戻る可能性が残っていること、家族が月に何回帰って通風と通水をしていること、家財を置いたままであることを具体的に伝えて、この状態が契約上どう扱われるかを尋ねてください。伝えないまま数年が経つのがいちばん避けたい形です。
住民票を施設へ移すかどうかも、この時期に出てくる分かれ道です。移すと固定資産税の納税通知書の送付先が変わり、選挙や各種通知の届け先も動きます。介護保険には、施設へ入所して住所を移した場合に元の市町村が引き続き保険者となる住所地特例という取扱いがありますが、対象となる施設の種類は限られます。影響が出る先が介護と税で別々なので、市の介護保険担当と資産税担当の両方に確認してから決めてください。
郵便は転居届による転送で当面しのげますが、これは期限のある仕組みです。転送は原則として一年間で、継続したい場合は改めて手続きが要ります。しかも転送は転居の届出であって、空き家を管理するための制度ではありません。誰宛の郵便をどこへ転送するのかを決めておかないと、本人宛の親展書類が施設で開封されないまま積み上がります。開始日と満了日を記録し、満了の一か月前に確認する予定を入れてください。
税では、生前に売る場合の居住用財産の特別控除が関わります。原則として、住まなくなった日から三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までに譲渡することが要件とされています。保留が長引くほど、この選択肢は静かに消えていきます。売ることを勧める話ではありません。選べる道が一本減る日付があるのに、家族が知らないまま過ぎるのが問題なのです。要件の細部と適用の可否は税理士へ確認してください。
相続が起きてから売る場合には、被相続人の居住用財産を売ったときの特別控除があります。亡くなる直前に老人ホーム等へ入っていたケースでも、入所した時点で要介護認定を受けていたことなど所定の条件がそろえば、対象として扱われる余地があります。ここで見落とされやすいのが、相続の時から譲渡の時まで、事業や貸付けの用に供されていないことという要件です。空き家のあいだに親族へ貸したり、駐車場として使わせたりすると、要件から外れる場合があります。対象となる期間や控除の枠は見直されることがあるので、国税庁の案内で現在の要件を読んだうえで、当てはまるかどうかの判断は税理士に委ねてください。
固定資産税については、建物が建っているうちは原則として住宅用地としての扱いが続きます。一方で、管理が行き届かない空き家は行政から指導や勧告を受けることがあり、勧告に至った場合は住宅用地の特例の対象から外れる取扱いがあります。言い換えると、保留そのものは税の問題になりませんが、保留と放置を取り違えると税の問題になり得るということです。次の章で扱う最低限の維持は、この意味でも効いてきます。
ここまでの項目は、決めるものではなく日付を書くものです。転送の満了日、保険へ連絡した日、住まなくなった日、認定の有効期間。これらを一枚のカレンダーに落として、家族が見られる場所に置いてください。期限は決断する日ではなく、この日を過ぎると選べる道が減るという目印です。目印さえ立っていれば、そこまでは安心して保留を続けられます。
- 証券番号を用意し、帰宅の頻度と家財の有無まで具体的に伝えて保険会社に照会する
- 住民票を移すかどうかを、市の介護保険担当と資産税担当の両方に確認する
- 郵便の転送について、開始日と満了日を記録し満了前の確認予定を入れる
- 住まなくなった日を確定し、譲渡の特例に関わる期限を家族で共有する
- 認定の有効期間、保険の満期、転送の満了を一枚のカレンダーに集める
| 項目 | 短期のうちの扱い | 長期化したときに変わること | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 火災保険 | 住宅用の契約がそのまま続く | 契約上の区分や告知の扱いが変わる場合がある | 保険会社・代理店 |
| 住民票 | 実家に置いたままでも支障が出にくい | 納税通知書の送付先や介護保険の保険者に関わる | 市の介護保険担当・資産税担当 |
| 郵便の転送 | 転居届で当面は届け先を移せる | 原則一年で満了し、継続には改めて手続きが要る | 郵便局 |
| 生前に売る場合の特別控除 | 住んでいた家として扱われる | 住まなくなった日から三年を経過する日の属する年の年末が原則の区切り | 国税庁の案内・税理士 |
| 相続後に売る場合の特別控除 | 老人ホーム等入所の要件を満たせば対象になり得る | 相続後に貸すと要件から外れる場合がある | 国税庁の案内・税理士 |
| 固定資産税 | 建物があるうちは原則として住宅用地の扱い | 勧告を受けると特例から除外される取扱いがある | 市町の資産税担当・空き家担当 |
戻る前提を残すなら、「数日で暮らし始められる状態」だけを保つ
この章では、いつでも戻れる状態を保つための最低限を決めます。基準はきれいかどうかではありません。本人が帰ってきたとき、数日で生活を始められるかどうかです。
戻る前提を残すと決めた家族が最初に陥るのは、全部を保とうとして続かなくなることです。庭も室内も以前と同じに保とうとすれば月に何度も通うことになり、半年で誰かが倒れます。基準を一つに絞ってください。本人が退所したとき、数日で暮らし始められるか。この基準に照らすと、優先するのは掃除ではなく、湿気、水回り、暖房、そして段差だと分かります。
湿気は無人の家をいちばん早く傷めます。遠州では冬に乾いた強い風が吹く一方、梅雨から夏にかけては閉め切った家の中に湿気がこもります。押し入れ、北側の部屋、畳、造り付けの家具の裏。ここにカビが出ると、拭いて済む段階を越えると畳や壁紙の入れ替えになり、戻る直前になって数十万円単位の出費が生まれます。巡回のときは、対角にある窓を二か所開けて風の通り道を作り、押し入れと納戸の戸も開けたまま滞在してください。滞在は三十分で十分です。
水回りは、使わないことによって壊れます。排水口の奥に溜まっている水が蒸発すると、下水の臭いと虫が室内へ上がってきます。台所、洗面、浴室、洗濯機の排水口、そして二階のトイレのように普段使わない場所ほど先に抜けます。巡回のたびに各所を短く流すだけで防げます。冬は別の注意が要ります。磐田や袋井の平野部でも明け方に氷点下まで下がる日があり、給湯器や露出した配管の凍結が起きます。長く空けるなら水抜きの方法を、給湯器のメーカーか設置した事業者に確認しておいてください。
設備の寿命は、使わなくても進みます。給湯器、エアコン、ガスコンロ、換気扇。数年動かさずにいると、戻る段になって複数が同時に使えないと分かることがあります。安全に行える範囲で、巡回のたびに短時間だけ通電し、エアコンを送風で回し、給湯器でお湯を出してみてください。異音や表示の異常はその場で写真に撮ります。分電盤の内部やガス設備そのものには手を出さず、気になる点は事業者へ連絡してください。
在宅復帰の見込みが具体的になってきたら、住宅改修を工程に入れます。手すりの設置、段差の解消、滑りにくい床材への変更、開き戸から引き戸への交換。介護保険には住宅改修費の支給があり、支給限度基準額は原則として二十万円とされ、自己負担の割合に応じた額が支給されます。ここで押さえておきたいのは、原則として工事の前に申請が必要で、施設に入所している間は対象外とされる点です。退所して自宅で暮らすことが前提になって初めて動けます。見積もり、申請、施工で一か月から二か月かかることも珍しくないので、退所の話が出た日に、その工程を思い出せるようにしておいてください。手続きの詳細はケアマネジャーと市の介護保険担当に確認します。
家財は捨てすぎないことが原則です。戻る前提であれば、寝具、日常の着替え、調理器具、常用の家具、仏壇と位牌はそのまま残します。処分してよいのは、生鮮品、開封済みの食品、期限の切れた薬、古新聞や雑誌のように、本人が戻っても使わないものだけです。よかれと思って片付けた結果、本人が退所した日に自分の布団も湯呑みもない、という場面は実際に起きています。本人の所有物である以上、同意なく処分しないという線は、戻る前提でも戻らない前提でも変わりません。
近隣への伝え方も決めておきます。無人であることを広く知らせるのは防犯上ためらわれますが、まったく音沙汰がないほうが不安を生みます。自治会の役員と両隣には、本人が施設にいること、家族が定期的に来ていること、緊急時の連絡先を伝えておくとよいでしょう。台風の後に瓦や雨樋の異常を知らせてもらえるのは、こうした関係がある家です。あわせて、地域の浸水想定は市が公開しているハザードマップで確認しておいてください。天竜川に近い低地では、浸水の履歴が保険や将来の判断に関わることがあります。
巡回の頻度は年間で一定にせず、季節で変えるほうが続きます。草が伸びる初夏から初秋は月に二回、冬は月に一回、台風や大雨の後は臨時に一回。この程度でも、家は見られている状態を保てます。担い手が一人に寄っている場合は、シルバー人材センターや市の空き家相談窓口で委託できる範囲を先に調べておいてください。頼める先を知っているだけで、担当者が動けなくなったときの選択肢が残ります。
- 巡回のたびに対角の窓を開けて三十分滞在し、押し入れと納戸も開ける
- 台所、洗面、浴室、洗濯機、二階トイレの排水口を短く通水する
- 冬は給湯器と露出配管の水抜き方法を事業者に確認しておく
- 住宅改修は施設入所中は原則対象外。退所が見えた時点でケアマネジャーへ相談する
- 寝具、着替え、調理器具、仏壇は残し、生鮮品と期限切れの薬だけを処分する
| 見る場所 | することの中身 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| 窓と押し入れ | 対角の窓を開けて風を通し、押し入れと納戸の戸も開けておく | 毎回。梅雨から夏は月二回 |
| 各所の排水口 | 台所、洗面、浴室、洗濯機、二階トイレを短く流す | 毎回 |
| 給湯器と配管 | お湯を出して動作を見る。冬季は水抜きの要否を確認する | 毎回。凍結の恐れがある時期は前倒しで |
| 屋根・雨樋・外壁 | 地上から見える範囲で撮影する | 月一回と、荒天の後 |
| 庭と敷地境界 | 越境を確認し、草丈が膝を越える前に刈る | 初夏から初秋は月二回 |
| 郵便受けまわり | 回収して、たまって見える状態を作らない | 毎回 |
図2戻れる状態を保つのは、家族だけの仕事ではない
「戻らない前提へ切り替える合図」を、六つ書いて置いておく
この章では、前提を切り替える引き金を先に決めます。合図を書いておけば、その日が来るまでは迷わずに保留を続けられます。逆に合図がないと、保留は不安の置き場になります。
保留が苦しくなるのは、終わりが見えないからです。だから終わりの条件を先に書きます。書き方は簡単で、これが起きたら家族で集まって話す、という出来事を六つ挙げておくだけです。どれか一つが起きたら話し合いを開くと決めておけば、それまでは家のことで気を揉まずに済みます。挙げるのは話し合いを始める合図であって、結論ではありません。
一つ目は介護と医療の側の変化です。在宅復帰を目的とする施設から生活の場としての施設へ移ったとき、区分変更で介護度が上がったとき、医師やリハビリの担当から自宅での生活は難しいと説明を受けたとき。これらは見立ての土台そのものが動いた場面です。説明を受けた日付、話した人の職種、言われた内容を、その日のうちに書き留めてください。後で「そんな話は聞いていない」という食い違いが起きやすい部分です。
二つ目は本人の言葉です。本人が自分の口で、もう帰らないと言った日。これは重い合図ですが、一度の発言で切り替えないでください。体調や面会の状況で言うことは揺れます。複数の家族が、別の日に、同じ趣旨を聞いたかどうかで判断します。逆に、帰りたいと言い続けているうちは、周囲の都合で前提を動かさない。なお、本人に契約を結ぶ判断力があるかどうかは家族が決められる事柄ではないので、その点は司法書士や弁護士に確認してください。
三つ目はお金です。施設の費用と実家の維持費の合計が、年金と収入で賄えなくなり、預貯金の取り崩しが始まったとき。そして、その取り崩しのペースで何年もつのかが、家族が想定していた期間より短いと分かったとき。実務ではこれがいちばん現実的な合図になります。年に一度、同じ様式で計算し直してください。前の年の数字と並べると、傾きが見えます。傾きが急なら、選択肢を比べる時期が近づいています。
四つ目は建物です。屋根の葺き替え、給湯器や配管の交換、シロアリの被害、雨漏りの発生。まとまった修繕が必要になった時点で、直して保つのか手放すのかという分岐が立ちます。判断の材料は二つです。その修繕費が、実家を持ち続ける費用の何年分に当たるか。そして、直したとして本人が戻れる状態なのか。直せば戻れるのであれば投資になりますが、戻れないと分かっている家に大きな修繕をかけると、後で回収できません。
五つ目は期限です。譲渡の特例に関わる年数、相続が起きた場合の登記の期限、認定の有効期間。期限が来たこと自体を切り替えの理由にする必要はありません。ただし、期限の三か月前に一度家族で話す、という予定だけは入れておいてください。期限の直前に初めて事情を知った家族がいると、話し合いが焦りに支配されます。名義が先代のままだと分かっている家では、相続登記の申請義務と相続人申告登記の仕組みを法務省の案内で先に読んでおくと、期限が来ても慌てません。
六つ目は担い手です。巡回している人が転勤になった、体調を崩した、自分の家庭の介護が重なった。管理が一人に寄っている体制は、外からは順調に見えたまま静かに壊れます。年に一度、この人が来られなくなったら誰が代わるかを確認してください。代われる人がいない、委託する費用も出せない、という結論になったなら、それは建物の状態や本人の状態とは無関係に、切り替えを話し合う十分な理由になります。
合図が起きたときの手順も先に決めておきます。その場で結論を出さないこと。まず起きた事実を記録し、本人の意思を確認できる状態かを見て、登記名義と決定できる人を確かめ、同じ資料を家族全員へ配り、二週間ほど考える時間を置く。この順番です。そして最も大事なことを一つ。前提を切り替えることは、売ると決めることではありません。切り替わるのは見立てのほうで、残す、貸す、売る、譲るという手段を選ぶのはその後の話です。
- 六つの合図を紙に書き、家族全員が同じものを持っている状態にする
- 医療や介護から説明を受けた日は、日付と職種と内容をその日に記録する
- 年に一度、施設費用と維持費の合計と預貯金の残り年数を計算し直す
- まとまった修繕が必要になったら、費用を維持費の何年分かに換算して比べる
- 巡回の担当が続けられなくなった場合の代役と委託先を毎年確認する
| 合図 | 具体的な出来事 | 起きたら最初に確認すること |
|---|---|---|
| 介護と医療の変化 | 施設が変わった、区分変更で介護度が上がった、在宅は難しいと説明された | 説明の日付と職種と内容。次の見直し日を前倒しするか |
| 本人の言葉 | 本人が自分の口で、もう帰らないと述べた | 複数の家族が別の日に同じ趣旨を聞いているか |
| お金 | 年金と収入で賄えず、預貯金の取り崩しが始まった | 取り崩しのペースで何年もつか。前年と比べた傾き |
| 建物 | 屋根、給湯器、配管、シロアリ、雨漏りでまとまった修繕が必要になった | 修繕費は維持費の何年分か。直せば戻れる状態なのか |
| 期限 | 譲渡の特例に関わる年数や、相続登記の期限が近づいた | 期限の三か月前に家族で話す予定を入れてあるか |
| 担い手 | 巡回している人が転勤、体調不良、別の介護で動けなくなった | 代われる家族がいるか。委託できる費用と先があるか |
保留のあいだに進めてよい調査と、まだ結んではいけない契約
この章では、結論を出さないまま進められることと、決めると戻れなくなることを仕分けます。使う基準は二つだけです。後戻りできるか。本人の同意や権限が要るか。
保留を選んだからといって、何もしないでいる必要はありません。調べる作業のほとんどは費用も本人の同意も要らず、後戻りもできます。そして調べておくと、合図が来たときに動き出す速さが変わります。名義が誰かも分からない状態から始めると、話し合いの前に数か月かかります。ここでは、保留中に手をつけてよいものを四つ、止めておくものを二種類に整理します。
進めてよい調査の一つ目は名義です。実家の登記事項証明書を取り、所有者が親本人になっているのか、亡くなった祖父母のままなのかだけは、今日のうちに確かめる価値があります。先代の名義で止まっていれば、決められるのは親一人ではなく相続人全員になります。相続登記については申請が義務化されており、遺産分割がまとまらない場合には相続人申告登記という簡易な手続きも用意されています。義務の範囲、期限の考え方、必要な書類は法務省のページで確認し、実際の手続きは司法書士へ相談してください。
二つ目は土地と建物の条件です。公図、地積測量図の有無、境界標が現地にあるか、前面道路が公道か私道か、幅はどれくらいか。これらは帰省したついでに写真を撮り、法務局と市の窓口で資料を取るだけで集まります。あわせて、市が公開しているハザードマップで浸水想定と土砂災害の区域を確認しておいてください。磐田市は大雨への備えとしてハザードマップや冠水情報の入口を公開しています。読み取った内容の最終的な判断は、土地家屋調査士や建築士など該当する専門家へ渡します。
三つ目はお金の材料です。実家を持ち続ける年間費用の合計、施設費用の年額、預貯金の残高と取り崩しのペース。これは第1章で一度計算していますが、保留中は年に一度更新します。売った場合にどれくらい手元に残るのかを知りたい場合、価格の目安を尋ねること自体は保留と両立します。ただし、目安を聞くことと、仲介を依頼する契約を結ぶことはまったく別の行為です。依頼にあたる書面かどうかを、署名する前に必ず確かめてください。
四つ目は家族の把握です。相続人になる人が誰と誰か、連絡先はどこか、それぞれが実家についてどう考えているか。ここは聞くだけで、決めません。兄弟のうち一人でも状況を知らされていない人がいると、合図が来たときにその人の同意を得るところから始まります。年末年始や法事のように全員がそろう機会に、現状の共有として話しておいてください。
止めておく決定の一種類目は、後戻りができないものです。解体、家財の一括処分、仏壇や位牌の処分、そして大きなリフォーム。解体は特に慎重に扱ってください。壊してから接道が足りずに建て替えが難しいと分かる、あるいは境界が確定していなかったと判明する、という順番になると取り返しがつきません。加えて、本人が戻る可能性が残っているうちに建物をなくすのは、見立ての結論を先取りする行為です。
二種類目は、本人の同意や権限が要るものです。仲介を依頼する媒介契約、売買契約、贈与、賃貸借契約、そして家族信託や任意後見のような制度上の契約。いずれも名義人本人の意思が土台になります。判断力に不安が出ている段階で急いで契約を結ぼうとすると、後から効力を争われることがあります。とりわけ、急ぐ理由が家の外から持ち込まれたとき、たとえば今なら高く売れると言われた場合は、一度止めて別の相談先に同じ話を確かめてください。急がせる材料は、たいてい相手側の事情です。
最後に、保留そのものの費用も年に一度は見ます。維持費、建物の劣化、そして家族が使っている時間。保留は無料ではありません。それでも、急いで決めて失うもののほうが大きい場面は確かにあります。だから比べる形にしておくのです。手元に残しておきたいのは結論ではなく、現在地を写した一枚です。ふじがおか実家カルテは、住所と手元の資料から、その一枚を作るための入口として使えます。価格を出す査定でも、法律や税の判断でもありません。確認する順番をそろえるための資料です。
- 登記事項証明書を取り、名義が親本人か先代のままかだけは先に確かめる
- 公図と境界標、前面道路の状況を写真と資料で残す
- 市のハザードマップで浸水想定と土砂災害の区域を確認する
- 価格の目安を聞くことと、仲介を依頼する契約を結ぶことを分けて扱う
- 解体、家財の一括処分、贈与、媒介契約は合図が来るまで結ばない
| 決定 | 保留中に結ばない理由 | 進めてよくなる条件 |
|---|---|---|
| 解体 | 壊すと戻せない。接道や境界の確認が済んでいないと後で行き詰まる | 戻らない前提へ切り替わり、名義と接道と境界の確認が終わっている |
| 家財の一括処分 | 本人の所有物であり、戻ったときに生活道具がなくなる | 本人の同意があり、残すものの一覧を家族で共有できている |
| 媒介契約 | 価格の目安を聞くこととは別の行為で、共有者の同意が要る場合がある | 名義人と決定できる人が確定し、家族の合意がそろっている |
| 賃貸に出す | 貸すと相続後の特別控除の要件から外れる場合がある | 税理士に適用の可否を確認し、戻る前提を外す判断が済んでいる |
| 贈与や名義の変更 | 税と権利の両方に影響し、本人の意思確認が土台になる | 税理士と司法書士の双方に確認が取れている |
| 大きなリフォーム | 戻れない家に投じると回収できない | 在宅復帰の見込みが具体化し、住宅改修の手続きを確認できている |
図3保留中の行動を、後戻りと同意の二軸で仕分ける
このページ固有の確認メモ
ここからは「施設入居は一時的?実家を空き家にする判断を急がないための確認表」で特に確認したい内容を、事実、避けたい判断、手元資料に分けて示します。すべてを一度に終える必要はありません。確認できた項目には日付と根拠を添え、分からない項目には担当者と再確認日を付けてください。家族が別々の時間に作業しても、同じ一覧へ戻れる状態を目指します。
確認しておく事実
この欄は、方針を決める前に共有したい事実です。家族の記憶だけで確定せず、通知書、契約書、公式ページ、撮影日が分かる写真など、確認に使った根拠を隣へ書きます。該当しない項目も削除せず「該当なし」とした理由を残すと、後から同じ調査を繰り返さずに済みます。
- 保留は悪くない。根拠のない保留と、期限を知らない保留が問題になる
- 見立ては施設の目的、認定調査票、医療の条件、費用の持ち時間の四つで作る
- 見立てには必ず次に見直す日を付け、その日までは家のことを考えない
- 郵便の転送、譲渡の特例、火災保険の扱いには時間の区切りがある
- 戻る前提の管理は、きれいにすることではなく数日で暮らせる状態を保つこと
- 住宅改修は原則として事前申請が必要で、施設入所中は対象外とされる
- 前提を切り替える合図を六つ書いておくと、保留が不安の置き場にならない
- 調べる作業は保留中でも進められるが、後戻りできない契約は結ばない
避けたい判断
この欄に当てはまる可能性があるときは、契約や処分をいったん止めます。一般例を対象の家へ当てはめたのか、資料で確かめたのかを区別し、不足情報を質問へ直してください。法務、税務、測量、建物、行政など別分野の判断が必要なら、回答できる相談先へ切り分けます。
- 家族それぞれが違う見立てを持ったまま、根拠を出さずに話し合う
- 施設に入ったことをもって、恒久的な転居と決めつけて処分を進める
- よかれと思って家財を片付け、本人が戻る日に寝具も食器も残っていない
- 居住実態が変わったことを保険会社へ伝えないまま数年が過ぎる
- 貸してから、相続後の特別控除の要件に関わると知る
- 巡回を一人に任せきりにして、その人が動けなくなるまで気づかない
- 価格の目安を聞くつもりで、仲介を依頼する書面に署名してしまう
手元で探すもの
見つけた資料には名称、発行年、原本の保管者を記します。古い資料も経緯を知る手掛かりになるため、最新版と違うだけで捨てないでください。見つからない場合は空欄にせず、再取得できるか、誰に所在を尋ねるか、いつ再確認するかを決めると次の相談準備になります。
- 入所した施設の種類と、契約書に書かれた更新や退去の条件
- 要介護認定の区分、有効期間、認定結果の通知書の保管場所
- 医療側から聞いた在宅復帰の条件と、聞いた日付
- 施設費用の年額と、実家の年間維持費の合計
- 預貯金の残高と、取り崩しのペースで何年もつか
- 登記名義人と、先代のままかどうか
- 火災保険の証券番号と、無人化を伝えた日
- 郵便の転送の開始日と満了日
- 住民票を移すかどうかと、その影響を確認した窓口
- 巡回の担当者、頻度、季節ごとの予定と委託先の候補
- 前提を切り替える六つの合図と、家族が共有した日
よくある質問
施設に入ったばかりで、戻れるかどうか分かりません。実家はどうすればよいですか
結論を出す必要はありませんが、見立ては先にそろえてください。入所した施設が在宅復帰を支援する場所か生活の場か、認定調査票と主治医意見書に何が書かれているか、医療側は何ができれば戻れると言っているか、預貯金が何年もつか。この四つを並べ、次に見直す日を決めます。そのうえで、戻る前提を残すなら数日で暮らし始められる状態を保つ管理に絞ります。
決めないまま置いておくと、損をすることはありますか
決めないこと自体は問題になりませんが、期限のある項目は静かに進みます。郵便の転送は原則一年で満了し、生前に売る場合の特別控除は住まなくなった日から三年を経過する日の属する年の年末が原則の区切りとされています。火災保険も、居住実態が変わると契約上の扱いが変わる場合があります。期限を一覧にして、その日が来る前に一度話す予定だけ入れておいてください。適用の可否は税理士へ確認してください。
戻る可能性を残したまま、実家を貸すことはできますか
建物の状態と本人の意思によっては選択肢になりますが、二点の注意があります。ひとつは、借主がいる状態では本人が戻りたくなってもすぐには戻れないこと。もうひとつは、相続後に売る場合の特別控除について、相続の時から譲渡の時まで貸付けの用に供されていないことが要件とされている点です。貸す判断の前に、税理士へ適用の可否を確認してください。
いつ「戻らない前提」に切り替えればよいか分かりません
切り替える日を予測するのではなく、切り替えを話し合う合図を先に決めます。施設が変わった、介護度が上がった、本人が自分の口で帰らないと述べた、預貯金の取り崩しが始まった、まとまった修繕が必要になった、巡回の担い手が続けられなくなった。この六つのどれかが起きたら家族で集まる、と決めておけば、それまでは保留を続けられます。切り替えは売ると決めることではありません。
本人が施設にいる間に、自宅に手すりを付けておけますか
介護保険の住宅改修は、原則として工事の前に申請が必要で、施設に入所している間は対象外とされています。退所して自宅で生活することが前提になって初めて動ける制度です。見積もり、申請、施工で一か月から二か月かかることもあるため、退所の話が出た時点でケアマネジャーと市の介護保険担当に相談してください。支給限度基準額や自己負担の扱いも、その場で確認できます。
保留のあいだにやっておくと、後で楽になることは何ですか
名義の確認がいちばん効きます。登記事項証明書を取り、所有者が親本人か先代のままかを見てください。先代のままなら決められるのは相続人全員になり、戸籍をたどる作業が先に必要です。あわせて、公図や境界標の写真、ハザードマップの確認、年間維持費の集計まで済ませておくと、合図が来たときに数か月分の時間が浮きます。
公式出典・確認先
制度や受付条件は変わることがあります。最終判断の前に、リンク先の最新情報と担当窓口を確認してください。
- ふじがおか実家カルテ|住所で分かること(fudosan.atawi.link)カルテで整理する範囲と、現地・専門家確認が必要な範囲を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続登記の申請義務化について(www.moj.go.jp)相続登記の基本的義務、遺産分割成立後の追加的義務、経過措置を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続人申告登記について(www.moj.go.jp)遺産分割がまとまらない場合の申告登記と必要書類を確認確認日:2026-08-27
- 国税庁|被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(www.nta.go.jp)適用期間、対象家屋、相続人数による控除限度額等を確認確認日:2026-08-27
- 磐田市|大雨への備え(www.city.iwata.shizuoka.jp)磐田市ハザードマップ、洪水・冠水情報への公式入口を確認確認日:2026-08-27

