実家が浸水想定区域にあるとき|売る・残す前に家族で見る地図
実家の住所を市のハザードマップに入れて、建物のあたりに色がついていた。多くの家族はここで手が止まります。色があるということは危ないのか、売れないのか、直しても無駄なのか。けれど地図の色は、その場所が毎年水に浸かるという意味ではありませんし、色がないから安全だという意味でもありません。あの図は「この川がこれだけの雨で溢れたら、地面からどれくらいの深さになるか」を計算した結果であって、頻度の情報でも、あなたの家の被害の予測でもないからです。判断に使うには、色の意味を分解して、過去に実際どうだったかを重ね、実家の敷地と建物の高さを当てはめる必要があります。このページでは、磐田市・袋井市・森町あたりの実家を想定して、地図と実績の違いから始めて、地元の川と地形、浸水の深さごとに建物のどこが傷むか、保険と売却の値付けがどう動くか、そして残すと決めたときの備えまでを順に並べます。売る・残すを決める前に、家族の全員が同じ紙を見て話せる状態を作ることが目的です。

まず結論
先にやることは三つです。市の防災ページから洪水・内水・高潮・津波の図を種類ごとに分けて見る。次に、過去に実際どこまで水が来たかを家族と近隣から聞き取る。最後に、敷地と玄関土間が道路面から何センチ上がっているかを測る。この三つがそろうと、想定の深さが自分の家の床から何センチになるかが見当つきます。保険の水災補償の有無、重要事項説明で買主に伝わること、残す場合の備えは、その後の話です。
地図の色は予測、浸水の記録は事実。二つを別々に集める
ハザードマップの浸水想定と、過去に実際に水が来た記録は、まったく別の情報です。片方だけで実家の状況を語ると、判断を誤ります。
洪水浸水想定区域図は、対象の川が一定の規模の雨で氾濫した場合に、地面からどれくらいの深さまで水が広がるかをシミュレーションした図です。作っているのは河川の管理者で、市のハザードマップはそれを住民向けに読みやすくしたものになります。ここで押さえておきたいのは、この図が確率や頻度を表していないことです。色がついている場所が毎年水に浸かるわけではなく、逆に白い場所で一度も浸水しないという保証もありません。想定した川が溢れた場合の話であって、想定外の降り方や、別の水路からの越水は別の図で見ることになります。
図は一枚ではありません。洪水、内水、高潮、津波、土砂災害。これらは原因が違うので、それぞれ別に作られています。磐田市であれば防災のページに大雨への備えの入口があり、そこから各種の図にたどれます。実家の住所を入れてみると、洪水の図では白いのに内水の図では色がついている、という結果になることは珍しくありません。片方だけを見て安心したり落胆したりしないよう、必ず種類ごとに確認して、どの図で何色だったかを別々に控えてください。
内水は、川が溢れなくても起きます。下水道や水路の排水能力を超える雨が短時間に降ると、行き場を失った水が道路や敷地に溜まります。低い土地や、周りより一段下がった駐車場、道路の下をくぐる箇所で先に溜まりはじめます。住んでいる家なら誰かが気づきますが、空き家では床下まで水が入っても分かりません。数年経ってから床が沈む、押し入れの下段がかび臭い、という形で表に出てきます。内水の図に色がついていたら、床下の点検口を開けて基礎の内側を見る作業を一度は入れてください。
同じ洪水の図でも、想定する雨の規模が違う二種類が公表されていることがあります。ごく大まかに言えば、その川の整備の目標としている規模の雨で作った図と、その地域で考えられる最大級の雨で作った図です。前者で白く、後者で色がつく場所は、かなり広い範囲にあります。どちらの図を見ているかを取り違えると、家族の間で話がかみ合いません。図の名前、公表された年、想定した規模を、必ず一緒に控えておいてください。
ここから実績側です。過去にその場所がどこまで浸かったかは、図には出てきません。集める先は、親や親戚の記憶、近隣の古くからお住まいの方、自治会、消防団、そして市の防災や治水の担当窓口です。「昔、床下まで来たことがある」という話が出たら、いつごろか、水はどちらから来たか、どこまで上がったか、何時間で引いたか、その後に対策をしたかを聞いてください。壁に水位の跡が残っている家もあります。柱の変色や、外壁の下端だけ塗り直してある箇所は、聞き取りのきっかけになります。
地形も実績の一種です。国土地理院が地形の成り立ちを分類した図を公開していて、自然堤防、後背湿地、旧河道といった区分が見られます。旧河道は、昔その場所を川が流れていた跡です。周りより低く、水が集まりやすい傾向があります。地名から昔の地形を推し量る話もありますが、由来の解釈は諸説あることが多いので、地名だけで結論を出さないでください。使うのは、あくまで公開されている地形の図と、実際に歩いて確かめた敷地の高低差です。
図を見るときに、あわせて避難する場所と、そこまでの経路も確かめておいてください。指定された避難場所が、実家から見て水が来る側にあることがあります。経路の途中に、道路がくぐる箇所や、橋を渡る区間が入っていることもある。親がまだ住んでいるなら、歩いて何分かかるか、雨の中で歩けるかまで含めて見ます。誰も住んでいない空き家であっても、大雨の日に様子を見に行こうとする家族が出るので、その日は行かないという取り決めをしておく意味で、経路は一度見ておく価値があります。
集めた情報は、そのつど記録の形を決めて残します。見た図の名称、公表年または版、確認した日、実家の建物と敷地がどの区分に掛かっているか、母屋と離れや納屋で違いがあるか。画面を撮っておくときは、凡例が一緒に写るようにしてください。色だけを切り取った画像は、数か月後に見返すと何メートルの色だったか分からなくなります。家族で共有するときも、凡例つきの一枚があるかどうかで、話の進み方が変わります。
早めに自分で見ておく理由がもう一つあります。宅地建物取引業者が売買や賃貸の説明を行うとき、水害ハザードマップにおける対象物件のおおよその位置を示して説明することが、原則として求められています。つまり、いずれ買主や借主には必ず伝わる情報です。家族が知らないまま話を進めて、契約の直前に初めて見せられると、そこから急に条件の話が始まります。先に自分たちで確かめておけば、不意打ちになりません。
- 洪水・内水・高潮・津波・土砂の図を、種類ごとに分けて確認したか
- 見た図の名称、公表年、想定した雨の規模を控えたか
- 凡例が一緒に写る形で画面を保存したか
- 母屋・離れ・納屋・畑で、掛かる色に違いがないかを見たか
- 過去の浸水について、親族と近隣から時期・深さ・引くまでの時間を聞き取ったか
- 地形分類の図で、旧河道や後背湿地に当たるかを確認したか
図1色を見た日から、家族で話せる一枚になるまで
天竜川と太田川のあいだ。磐田・袋井で変わる水の事情
同じ市内でも、台地の上と低地では条件がまるで違います。どの川に関わる土地かで、問い合わせる先も見るべき図も変わります。
まず、実家がどの川に関係する土地かを押さえます。磐田市の西側を流れる天竜川は一級水系で、国が管理する区間があります。袋井市や森町を流れる太田川、原野谷川などは二級水系として静岡県が管理しています。管理者が違うと、浸水想定区域図を作っている主体も、詳しい話を聞く窓口も変わります。市の防災担当は地域全体の避難の話が中心なので、川そのものの整備や堤防の状況を詳しく聞きたいときは、国の河川事務所か県の土木事務所が相手になります。最初に問い合わせ先を間違えると、たらい回しで一日が終わります。
磐田市は、真ん中に磐田原と呼ばれる台地があり、その周りに低地が広がる地形をしています。見付や国府台のあたりは台地の上、天竜川沿いや南部の海側は低い土地です。同じ磐田市の実家といっても、台地の上なら洪水の図で白く、代わりに斜面の際で土砂災害の図に掛かることがある。低地なら洪水と内水の両方に掛かる。実家の話をするときに「磐田市だから」と一括りにできないのは、この地形の差が大きいからです。市名ではなく地区で、地区ではなく敷地で見てください。
天竜川の河口に近い掛塚のあたりでは、洪水に加えて高潮と津波の図も別に見ることになります。海と川の両方から水が来る可能性がある土地です。加えて、この一帯には古い町並みが残っていて、幅の狭い道が入り組んでいる場所があります。浸水そのものより、水が引いた後に泥出しの車や乾燥機を積んだ工事車両が入れるかどうかが実務上の壁になることがあります。前面道路の幅と、そこまでの経路を一度確かめておいてください。
袋井市では、太田川と原野谷川が市内を南へ流れ、下流で合流して遠州灘に注ぎます。市街地の一部はこの二つの川に挟まれた低い土地に広がっています。合流する地点の上流側は、本流の水位が高いあいだ支流の水が流れ込みにくくなり、支流の側で水位が上がることがあります。実家が支流や水路の近くにあるなら、本流の図だけでなく、その支流の図と、内水の図を必ず重ねてください。
森町は太田川の上流部にあたり、平地が谷筋に沿って細長く延びる地区があります。こうした場所では、広い範囲がゆっくり浸かる洪水よりも、短時間で水位が上がる出水や、背後の斜面からの土砂の図を先に見た方がよい場合があります。どちらを先に見るかは地区によって違うので、市町の防災担当に「この地区でまず見るべき図はどれか」と聞くのが早道です。窓口は、住所を伝えれば該当する図を案内してくれます。
農地が広がる地区では、用排水路の存在が効いてきます。匂坂のように農地が続く一帯では、敷地の脇や裏を用水路が通っていることがあります。水路が満水のあいだは、敷地に降った雨も、道路側溝の水も抜けません。田に水を張る時期と、台風や秋の長雨が重なると、条件が重なります。実家の敷地から水がどこへ抜けていくのか、雨のあとに一度歩いて確かめておくと、備えの置き場所が決まります。
道路の冠水も、地区ごとの事情として押さえておきたい項目です。線路や幹線道路の下をくぐる箇所、田の間を抜ける低い市道、堤防の内側に沿って続く道。こうした場所は、家そのものが浸からなくても、出入りができなくなる原因になります。実家までの経路のうち、雨のたびに通行止めになる箇所があるかどうかは、地元の方に聞けばだいたい分かります。売却のときに買主が気にするのも、建物より先にこの点であることが少なくありません。
遠州の気候の話も、備えの前提になります。台風の進路によっては県西部が風雨の強い側に入り、秋には停滞した前線で短時間に強い雨が降ることがあります。一日の総量は多くなくても、一時間あたりの雨量が大きいと、川より先に水路と側溝が追いつきません。内水の図が意味を持つのはこの局面です。強い雨のあとに実家の周りがどうなるかは、地元にいる方の記憶にしか残っていないことが多いので、聞ける機会に聞いておいてください。
最後に、敷地と建物の高さを数字にします。測るのは、前面道路の路面から敷地の地盤面までの段差、地盤面から基礎の天端まで、地盤面から玄関土間まで、地盤面から床下換気口の下端まで、そして室外機や給湯器の設置面の高さです。メジャーと写真があれば家族でも測れます。想定浸水深が0.5メートルでも、玄関土間が道路面から40センチ上がっていれば、床上に至るかどうかは微妙な数字になる。地面からの深さを、自分の家の床からの高さに置き換える作業が、この章の目的です。
- 実家に関係する川が一級水系か二級水系かを確認し、問い合わせ先を分けたか
- 台地の上か低地かを、地区ではなく敷地の位置で確認したか
- 河口部なら、洪水に加えて高潮と津波の図も見たか
- 支流や用水路が近いなら、本流の図と内水の図を重ねたか
- 敷地の脇や裏の水路が、どこへ抜けているかを雨のあとに歩いて見たか
- 路面から地盤面、基礎天端、玄関土間、床下換気口までの高さを測って記録したか
何センチで何が起きるか。浸水の深さと建物の傷み方
浸水深は地面からの深さで示されます。同じ数字でも、基礎の高さと設備の位置によって、家の受ける被害は大きく変わります。
はじめに、地図の数字と家の被害の関係を整理します。図に書かれた浸水深は地表面からの深さで、床からの深さではありません。基礎が高く、玄関土間が道路より上がっている家なら、想定0.5メートルでも床上まで届かないことがあります。逆に、道路より一段低い敷地に建つ家では、同じ0.5メートルでも床上に入ります。だから前の章で高さを測りました。想定の数字から自分の家の高さを引いて、床から何センチになるかを出してから、以下を読んでください。
床下までで止まった場合でも、放っておいてよいわけではありません。基礎の内側に水と泥が残り、床下の湿度が長く高いままになります。大引や根太などの木部、断熱材、配管まわりの木口が湿気を吸います。空き家では気づかれずに数か月から数年が過ぎ、床のたわみや、押し入れの下段の臭いとして表に出ます。泥を掻き出して、床下を送風して乾かす作業が要ります。乾かさずに床材だけ張り替えると、下からまた傷みます。
床上10センチから50センチくらいまでで効くのは、内装の下側です。畳は水を吸って重くなり、乾かしても元には戻りにくい。フローリングは膨れて浮きます。厄介なのは壁で、石膏ボードは水に浸かった高さより上まで吸い上げます。床上30センチの浸水で、壁は50センチから1メートル近くまで交換が必要になることがある。巾木の裏、間柱の下端、壁の中の断熱材まで見ないと、後からカビが出ます。壁を一度開けて乾かす判断がここで要ります。
1メートル前後まで来ると、電気設備に届きます。コンセント、給湯器のリモコン、キッチンの下の配管や食洗機、洗面台の内部。水に浸かった電気設備は、乾いたように見えても通電させないでください。基板の腐食は後から進みます。ブレーカーを落とし、電気工事や設備の業者に見てもらってから復旧します。この判断を急いで、水が引いた翌日に通電させて火が出る事例が繰り返し報告されています。
1メートルから2メートルの範囲では、外の設備がやられます。エアコンの室外機、給湯器の本体、エコキュートの貯湯タンクとヒートポンプ、太陽光のパワーコンディショナー。設置してある高さがそのまま被害の分かれ目になります。加えて、この深さでは1階の生活機能がほぼ止まります。台所も風呂も便所も使えず、2階が寝るだけの空間なら、その家では暮らせません。修理が終わるまでの住まいの手当てが要ります。
2メートルを超える想定なら、垂直避難ができるかどうかが最初の論点になります。木造の平屋や、2階が物置になっている家では、家の中に逃げる場所がありません。親がまだ住んでいる場合、これは建物の被害ではなく命の話です。想定浸水深が2メートル以上と3メートル以上のどちらの色かで、避難の計画が変わります。実家に高齢の親が一人で住んでいて、その色がついているなら、住み続ける前提を含めて家族で話す局面です。
被害の程度は、市町村が住家の被害認定調査を行って区分します。全壊、大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊といった区分があり、罹災証明書の交付につながります。浸水した深さだけで自動的に決まるものではなく、建物の損害の割合を調べて判定される仕組みです。誰も住んでいない空き家が住家として扱われるかは市町村の運用で分かれるため、実家のある市の窓口で、この建物が対象になるか、申請の期限があるかを先に聞いてください。
復旧の作業には順番があります。泥を掻き出し、洗い、乾かし、消毒し、それから内装を戻す。この乾かす工程が一番長く、床下と壁の中まで乾くのに一か月を超えることもあります。送風機や除湿機を回し続ける必要があり、そのための電気が使えるかも確認事項になります。急いで壁を閉じると、数か月後にカビと臭いで開け直すことになる。工期と費用の見積もりを取るときは、乾燥にかける日数が入っているかを見てください。
そして、この段階で家に関わってくる相手は一人ではありません。市の被害認定の調査、保険会社が手配する鑑定、工務店や板金の見積もり。三者は目的も基準も別々です。同じ家を見ても、出てくる紙の意味が違います。誰が何を決められるのかを取り違えると、市の判定を保険の支払額だと思い込んだり、業者の見積もりで罹災の区分が決まると考えたりします。次の図でその役割を分けて示します。
- 想定浸水深から敷地と床の高さを引いて、床からの深さに置き換えたか
- 床下で止まる想定でも、泥出しと乾燥の作業が要ることを見込んだか
- 壁は浸かった高さより上まで交換になり得ることを、見積もりの前提に入れたか
- 水に浸かった電気設備は、点検を受けるまで通電させない取り決めをしたか
- 室外機・給湯器・貯湯タンクの設置面の高さを測ったか
- 2階へ逃げられる家かどうかを、住んでいる人の状態と合わせて確認したか
図2浸水したあと、同じ家について誰が何を決めるか
水災補償・重要事項説明・値付け。お金の面で何が動くか
浸水想定は、保険料と売却の条件の両方に関わります。区域内だから一律に不利になるのではなく、どこがどう効くかを分けて見ます。
最初に確かめるのは、実家の火災保険に水災の補償が付いているかどうかです。住宅向けの契約では、風による損害が基本の補償に含まれる一方、水による損害は保険料を抑えるために外していることがあります。証券や契約のしおりで「水災」の欄を見てください。付いている場合も、支払いの条件が置かれていることがあります。床上まで浸水した場合、または地盤面から一定の高さを超えて浸水した場合、あるいは建物の損害の割合が一定以上の場合に支払う、といった定めです。条件は保険会社と契約の時期で違うため、証券の記載を代理店に読んでもらうのが確実です。
水災の保険料は、地域ごとのリスクに応じて区分する仕組みが導入されています。市区町村の単位で区分され、契約の更新のときから適用される流れです。浸水想定の掛かる地域では保険料が上がる方向に働くことがある一方、補償を外せばその被害は対象外です。保険料を抑えるために水災を外していたことに、浸水してから気づく例があります。更新の通知が来る前に一度見ておいてください。
空き家であること自体も、契約に関わります。誰も住んでいない建物は、住宅として扱われる契約ではなく別の区分で引き受けられることがあります。住んでいた前提の契約のまま長く空き家にしていると、使い方の申告が後で問題になり得ます。親が施設に入って何年も無人だ、月に一度だけ風を通しに行っている、といった実際の使い方を伝え、今の契約のままでよいかを確認してください。伝えて不利になるより、伝えないまま請求する方がこじれます。
家財の補償は、建物とは別の契約です。実家に家具や仏壇や思い出の品を残したままにしているなら、家財の契約があるかを見てください。床上浸水では、家財の損害が建物の損害を上回ることもあります。逆に、すでに持ち出して空になっているなら、その契約を続ける意味は薄い。今どうなっているかを知らないまま毎年の保険料を払う状態が、一番もったいない。
売却の場面では、水害ハザードマップにおける対象物件のおおよその位置を示して説明することが、宅地建物取引業者に原則として求められています。つまり買主は、契約の前に必ずこの情報を受け取ります。売る側が伏せておける情報ではありません。加えて、過去に実際に浸水したことがある場合、その事実は買主の判断に影響する事柄として、伝えるべき情報になり得ます。隠して契約したあとで発覚すると、話は値引きでは済まなくなります。
では価格にどう効くのか。浸水想定に掛かっているという一点だけで、機械的に何割下がるという計算はできません。実際に条件として効くのは、想定される浸水の深さ、過去に浸水した実績の有無と回数、前面道路や生活道路が冠水するかどうか、避難できる場所までの距離、そして買主が住宅ローンと火災保険をどう組めるかです。深さ0.3メートル未満の色と、3メートル以上の色を同じ扱いで語ることはできません。まずは自分の家がどの帯にいるかを、はっきりさせてください。
買主側の資金も、間接的に効いてきます。買う側は水災の補償を付ければ保険料が上がり、外せば自分でリスクを負います。売主では決められない部分ですが、買主が検討に時間をかける要因にはなります。売り出して反応が鈍いとき、価格を下げる前に資料の不足を疑ってみてください。
資料をそろえておくことが、この章で一番効く対策です。見た浸水想定図の名称と公表年、過去の浸水の聞き取りの内容、敷地と玄関土間の高さの実測値、これまでに行った浸水対策や修繕の履歴、火災保険の加入状況。これらを一組にして渡せる売主は多くありません。買主が知りたいのは「危ないかどうか」ではなく「どこまで分かっているか」です。分からない部分は分からないと書いてある資料の方が、都合のよいことだけ書かれた資料より信用されます。
税の扱いにも触れておきます。災害で家屋が損壊した場合に、固定資産税の減免の取扱いを設けている市町村があります。自動では適用されず申請が要るのが通常で、期限が設けられていることもあります。所得税では、災害による損失について雑損控除や災害減免法による軽減の取扱いがありますが、誰も住んでいない空き家の扱いは事情によって変わります。適用の可否は税理士か所轄の税務署へ確認してください。
- 証券を見て、水災の補償の有無と支払いの条件を確認したか
- 無人になった時期と現在の使い方を、保険会社へ伝えたか
- 家財の契約が今の実態に合っているかを見直したか
- 過去に浸水した事実があれば、記録として残し伝える前提にしたか
- 想定される浸水の深さが、どの帯に当たるかをはっきりさせたか
- 図の名称・実績の聞き取り・高さの実測・修繕履歴を一組にまとめたか
| 確かめたいこと | 聞く先 | 先に用意するもの |
|---|---|---|
| 浸水想定の図の種類と、実家の位置が掛かる色 | 市町の防災担当の窓口、市のハザードマップの案内 | 住所と地番、建物の位置が分かる図 |
| 川の整備の状況や、想定の前提になっている規模 | 一級水系は国の河川事務所、二級水系は県の土木事務所 | 対象の河川名と、実家からのおおよその距離 |
| 過去にその地区がどこまで浸水したか | 市の防災・治水の担当、自治会、近隣の古くからの住民 | 聞きたい時期の範囲と、聞き取りを書き留める用紙 |
| 水災の補償の有無と、支払いの条件 | 契約している損害保険会社または代理店 | 保険証券、契約者名、建物の使用状況の説明 |
| 空き家のままで契約を続けてよいか | 同上。使い方が変わった時点で相談する | 無人になった時期、現在の立ち入りの頻度 |
| 災害で損壊した場合の固定資産税の扱い | 実家のある市町の資産税の担当 | 被害の状況が分かる写真、家屋の所在と家屋番号 |
残す・貸す・売る。想定と向き合いながら決める備え
結論を急がなくて構いません。ただし、決めるまでのあいだにも被害は起きます。どの道を選ぶ場合でも先にやっておく備えがあります。
まず、どの選択肢でも共通する備えから並べます。権利証や登記識別情報の通知、火災保険の証券、固定資産税の通知書、通帳と印鑑、家族の記録になる写真。これらを実家の1階に置いたままにしないでください。浸水すると紙は原形をとどめません。再発行できるものもありますが、手間と時間がかかります。空き家であれば、そもそも現地に置かず、県外に住む家族が預かるのが確実です。どうしても実家に置くなら、2階の、外壁に接していない収納にまとめます。
残して使い続ける、あるいはいずれ誰かが住む前提なら、設備の高さを上げる工事が効きます。全面的な改修でなくても、部分的にできることがあります。コンセントの位置を床上から上げる、分電盤を高い位置に移す、エアコンの室外機と給湯器を架台に載せる、エコキュートの貯湯タンクの設置面を上げる。いずれも、次に設備を入れ替えるタイミングで一緒に頼めば、単独で工事するより安く済みます。実家の給湯器がそろそろ寿命だという話が出たときが、その機会です。
開口部からの水の侵入を減らす道具も、置いておくだけなら費用はかかりません。玄関、勝手口、車庫、掃き出し窓に当てる止水板。市町によっては土のうを配る取り組みや、土のうを置いている場所を案内している場合があるので、実家のある市の防災担当に聞いてください。土のうが手に入らなくても、丈夫なごみ袋を二重にして半分ほど水を入れた水のうを並べ、その上からブルーシートを被せると簡易の堰になります。作り方を一度試して、必要な枚数を数えておくと、当日に迷いません。
排水の側も見ておきます。敷地の雨水桝、側溝、竪樋の下の排水口が土や落ち葉で詰まっていると、たいした雨でなくても敷地に水が溜まります。空き家では何年も掃除されていないことが多い。桝のふたを開けて溜まった土を掻き出すだけで、水の抜け方が変わることがあります。合わせて、床下の点検口の位置と、床下換気口が塞がっていないかも確認してください。浸水したあと、床下を乾かす作業はこの換気口から行います。
浄化槽と井戸のある家では、浸水後にそのまま使えなくなることがあります。浄化槽は内部に泥や汚水が入り込むと機能が落ちるので、保守点検の契約先へ連絡して点検を受けます。井戸は、周囲の水が入り込んで水質が変わっている可能性があるため、そのまま飲用に使わず、市の環境担当や水質検査を行う機関に相談してください。どちらも、平時のうちに連絡先を控えておくだけで、後の動きがだいぶ速くなります。
空き家に特有の問題は、被害があっても誰も気づかないことです。人が住んでいれば、床下に水が入ったこと自体はその日に分かります。無人の家では、次に誰かが行くまで何も起きていないことになります。近隣の方に、雨の後に道路から見て変わったことがあれば連絡してほしいと頼んでおく。空き家の管理サービスを使っているなら、大雨の後に臨時で見てもらえる契約かどうかを確かめておく。この二つで、発見までの時間がかなり縮まります。
貸すことを考えるなら、浸水想定は借主にも説明される情報です。賃貸の場合も、水害ハザードマップにおける対象物件の位置は原則として説明の対象になります。加えて、貸したあとに浸水した場合、建物の修繕を誰が行い、家財の損害を誰が負うのかという整理が要ります。設備が浸かって使えなくなったときの対応、修繕のあいだの家賃の扱い。管理を委託する不動産業者と、契約書の条項を先に読み合わせておいてください。
売る方向で進めるなら、資料を先にそろえてから相談に行くのが結局は早道です。浸水想定図の写しと確認日、過去の浸水についての聞き取り、敷地と玄関土間の高さの実測、これまでの浸水対策と修繕の履歴、火災保険の加入状況。この束を持って行くと、査定の話が「区域内だから」で終わらず、条件の話になります。逆に、何も持たずに行けば、相手は最も慎重な前提で数字を出すしかありません。資料は値引きを防ぐ道具ではなく、話を具体にする道具です。
そして、決められないままの状態を続ける場合の備えです。売るか残すかがまとまらない家は、実際には珍しくありません。それ自体は悪いことではありませんが、期限のない保留は、傷みが進んだぶんだけ選べる手が減っていきます。次に家族で話す日を決めて、それまでに誰が何を調べるかを割り振ってください。台風の季節の前に一度、年度が変わる前にもう一度。年に二回、同じ紙を開いて更新する習慣ができれば、それで十分に前へ進みます。
- 権利証・保険証券・通知書などの紙を、実家の1階から動かしたか
- 設備の入れ替えの機会に、コンセント・分電盤・室外機の高さを上げる相談をしたか
- 止水板や水のうの用意と、必要な枚数を試して数えたか
- 雨水桝・側溝・竪樋の下の詰まりを取り、床下換気口の塞がりを確認したか
- 浄化槽の保守点検先と、井戸の水質について相談する先を控えたか
- 大雨の後に様子を知らせてもらえる相手を、近隣か管理サービスで確保したか
- 次に家族で話す日と、それまでに誰が何を調べるかを決めたか
図3想定される深さと、この家をどうしたいかで分かれる備え
このページ固有の確認メモ
ここからは「実家が浸水想定区域にあるとき|売る・残す前に家族で見る地図」で特に確認したい内容を、事実、避けたい判断、手元資料に分けて示します。すべてを一度に終える必要はありません。確認できた項目には日付と根拠を添え、分からない項目には担当者と再確認日を付けてください。家族が別々の時間に作業しても、同じ一覧へ戻れる状態を目指します。
確認しておく事実
この欄は、方針を決める前に共有したい事実です。家族の記憶だけで確定せず、通知書、契約書、公式ページ、撮影日が分かる写真など、確認に使った根拠を隣へ書きます。該当しない項目も削除せず「該当なし」とした理由を残すと、後から同じ調査を繰り返さずに済みます。
- 浸水想定図は頻度ではなく、想定した規模の雨で溢れた場合の深さを示す計算結果である
- 洪水・内水・高潮・津波・土砂は別々の図なので、種類ごとに分けて確認する
- 図の数字は地面からの深さ。敷地と基礎の高さを引いて、床からの深さに置き換える
- 磐田市は台地と低地で条件が大きく違い、市名ではなく敷地の位置で見る必要がある
- 一級水系は国の河川事務所、二級水系は県の土木事務所と、問い合わせ先が分かれる
- 床上30センチの浸水でも、壁は水位より高い位置まで交換になることがある
- 水に浸かった電気設備は、点検を受けるまで通電させない
- 被害の区分は市町村の調査、支払いは保険会社、直し方は業者。三者は基準が違う
- 水害ハザードマップにおける物件の位置は、原則として重要事項の説明の対象になる
避けたい判断
この欄に当てはまる可能性があるときは、契約や処分をいったん止めます。一般例を対象の家へ当てはめたのか、資料で確かめたのかを区別し、不足情報を質問へ直してください。法務、税務、測量、建物、行政など別分野の判断が必要なら、回答できる相談先へ切り分けます。
- 洪水の図だけを見て、内水や高潮の図を確認しないまま安心する
- 色の部分だけを画面に残し、凡例を保存せずに何メートルの色か分からなくなる
- 地図上の想定浸水深を、そのまま床からの深さだと思い込む
- 空き家の床下に水が入ったことに、数年間気づかないまま置いておく
- 泥出しと乾燥を省いて、内装だけを先に張り替える
- 水が引いた翌日に、浸かった電気設備へそのまま通電させる
- 市の被害認定の区分を、保険で支払われる金額だと考える
- 保険料を抑えるために水災の補償を外したことを、家族が誰も把握していない
- 過去に浸水した事実を伏せたまま売買の話を進める
- 権利証や保険証券を、実家の1階の引き出しに置いたままにしている
手元で探すもの
見つけた資料には名称、発行年、原本の保管者を記します。古い資料も経緯を知る手掛かりになるため、最新版と違うだけで捨てないでください。見つからない場合は空欄にせず、再取得できるか、誰に所在を尋ねるか、いつ再確認するかを決めると次の相談準備になります。
- 洪水・内水・高潮・津波・土砂の各図で、実家が掛かる色と深さ
- 見た図の名称、公表年、想定した雨の規模、確認した日
- 実家に関係する河川名と、その管理者の区分
- 過去の浸水の時期、水が来た方向、達した高さ、引くまでの時間
- 地形分類の図における、旧河道や後背湿地への該当
- 前面道路の路面から敷地の地盤面までの段差
- 地盤面から基礎天端、玄関土間、床下換気口までの高さ
- 室外機・給湯器・貯湯タンク・分電盤の設置されている高さ
- 2階へ避難できる構造か、住んでいる人が上がれるか
- 火災保険の水災補償の有無、支払いの条件、免責の金額
- 建物の現在の使用状況を保険会社へ伝えた日
- 家財の契約の有無と、実家に残している家財の状況
- 雨水桝・側溝・竪樋の下の詰まりの有無と、最後に掃除した日
- 浄化槽の保守点検先と、井戸の水質を相談する先
- 大雨の後に様子を知らせてもらえる近隣または管理サービスの連絡先
- 次に家族で話し合う日と、それまでの調べ物の担当
よくある質問
ハザードマップで色がついていたら、その実家は売れないのでしょうか
区域に掛かっていることだけで売却できなくなるわけではありません。実際に条件として効くのは、想定される浸水の深さ、過去の浸水の実績、道路が冠水するかどうか、買主が保険と資金をどう組めるかです。まず自分の家がどの深さの帯に当たるかをはっきりさせ、資料をそろえてから相談してください。
洪水の図では白いのに、内水の図では色がついていました。どちらを信じればよいですか
どちらも正しい情報で、原因が違うだけです。内水は川が溢れなくても、下水道や水路の排水が追いつかずに水が溜まる現象を示しています。両方を並べて見て、それぞれで想定される深さを別々に控えてください。備えの中身も、川の氾濫と内水では変わります。
想定浸水深0.5メートルと書かれていました。床上まで水が来るということですか
図の数字は地面からの深さで、床からの深さではありません。前面道路から敷地の地盤面、地盤面から玄関土間までの高さを測り、その分を引いて考えます。実測しないと自分の家の話にならないため、メジャーで測って写真とともに記録しておくことをお勧めします。
誰も住んでいない空き家でも、罹災証明書は取れますか
住家として扱われるかどうかで市町村の運用が分かれます。実家のある市の窓口へ、この建物が対象になるか、必要な書類は何か、申請の期限があるかを先に確認してください。必要のない場面もありますが、期限を過ぎてから知るのは避けたいところです。
保険料を抑えるために水災の補償を外しても大丈夫でしょうか
外せば、その被害は補償の対象外になります。判断の材料になるのは、想定される浸水の深さ、過去の実績、建て替えや修繕にかかる費用の見込みです。空き家であることや現在の使い方も引受の条件に関わるため、外す前に保険会社か代理店へ実際の状況を伝えて相談してください。
過去に一度浸水したことを、売るときに言わなければいけませんか
買主の判断に影響する事柄は、伝えるべき情報になり得ます。伏せたまま契約すると、後から発覚したときに値引きでは済まない話になります。いつ、どこまで、その後どう対処したかを記録として整理して示す方が、結果的に話は早く進みます。具体的な扱いは仲介する宅建業者に確認してください。
公式出典・確認先
制度や受付条件は変わることがあります。最終判断の前に、リンク先の最新情報と担当窓口を確認してください。
- ふじがおか実家カルテ|住所で分かること(fudosan.atawi.link)カルテで整理する範囲と、現地・専門家確認が必要な範囲を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続登記の申請義務化について(www.moj.go.jp)相続登記の基本的義務、遺産分割成立後の追加的義務、経過措置を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続人申告登記について(www.moj.go.jp)遺産分割がまとまらない場合の申告登記と必要書類を確認確認日:2026-08-27
- 磐田市|大雨への備え(www.city.iwata.shizuoka.jp)磐田市ハザードマップ、洪水・冠水情報への公式入口を確認確認日:2026-08-27

