実家を貸す前にリフォームすべき?費用をかける前の現状確認
「貸す前に直すべきか」という問いは、たいてい工事の話から始まります。ところが実際に募集まで進んだ家を並べてみると、費用の多寡ではなく、直す前に確かめていなかった一つの条件で計画が止まっている例のほうが目立ちます。誰の名前で貸せるのか、その建物を貸してよいのか、雨染みの原因はどこか、そして周辺でいま実際にいくらで募集されているのか。この四つが分からないまま見積もりを取ると、金額の比較はできても、その工事が要るかどうかは判断できません。このページでは、費用をかける前に確かめる順番、最低限の工事の線引き、回収年数の出し方、避けたほうがよい工事、そして現状のまま貸す道筋を順に整理します。

まず結論
工事の見積もりは最後です。先に、登記事項証明書で名義と持分を確かめ、建築確認と接道と市街化調整区域かどうかを窓口で確認し、天井のしみ・床の傾き・給湯器の製造年・分電盤を家族の目で見て、同じ学区で現在募集中の物件を三件そろえる。ここまで済むと、必要な工事は安全と衛生の線で自然に絞られます。工事費は年間の手取りで割って回収年数を出し、家族が貸すと決めている年数と突き合わせる。回収が七年を超える工事は、賃料で取り戻す計画から外してください。直さずに、不具合を書面にして貸す道も残っています。
見積もりを取る前に確かめる四つの条件
直すかどうかは、建物の傷み具合だけでは決まりません。貸せる人がいるか、貸してよい建物か、直せば埋まる場所かを先に確かめないと、見積書は比べられても選べません。
最初に確かめるのは工事の内容ではなく、誰の名前で貸せるかです。法務局で登記事項証明書を取り、所有者が親の単独名義か、兄弟の共有か、祖父母の代のままかを見ます。共有になっている場合、建物の賃貸借は期間が三年を超えないものであれば原則として持分の価格の過半数で決められる取扱いがあり、それを超える期間や大きな変更には共有者全員の同意が必要と整理されています。四年の普通借家契約を一人で結んでしまうと、後から他の相続人と揉める入口になります。個別の可否は司法書士や弁護士へ確認してください。
名義が亡くなった親や祖父のままなら、工事の前に相続登記の話が来ます。相続登記は申請が義務化されており、遺産分割がまとまらない場合には相続人申告登記という簡易な手続きが用意されています。制度の内容と期限の考え方は法務省の案内で確認できます。見積もりを先に集めても、名義が動かないうちは契約書に署名する人が決まりません。順番を逆にすると、見積書の有効期限だけが過ぎていきます。
次に建物側の前提です。建築確認済証と検査済証が残っているか、増築した部屋や離れが未登記のままになっていないか、前面道路にどう接しているか。昭和五十六年五月三十一日以前に建築確認を受けた建物は、いわゆる旧耐震基準の時期にあたります。貸すこと自体に耐震診断が義務づけられるわけではありませんが、火災保険の条件、将来の売却、入居者への説明のいずれにも関わってきます。磐田市や袋井市には市街化調整区域に建つ実家も多く、建てられた経緯によっては第三者へ貸せるかどうかを、市の建築や都市計画を担当する窓口へ先に確認したほうが安全です。
建物の一次点検は、専門家を呼ぶ前に家族でもできます。見るのは五つ。天井と押入れ上部のしみ、床の傾きとふかつき、柱や敷居に残る食害の痕、給湯器の本体に貼られた製造年の表示、分電盤の契約アンペアと漏電遮断器の有無です。遠州は冬の空っ風と秋の台風の両方を受ける土地で、屋根と外壁の傷みは風の当たる面から進みます。台風の後に雨染みが広がったのなら、入口は屋根そのものではなく谷樋や壁の取り合いにあることもあります。撮影日が残る形で写真を残してください。
見落とされやすいのが排水の方式です。公共下水につながっているのか、合併処理浄化槽なのか、単独処理浄化槽や汲み取りのままなのか。浄化槽であれば、保守点検、清掃、法定検査という定期的な費用と手間が毎年発生します。誰が費用を持ち、誰が業者と連絡を取るのかを契約の前に決めておかないと、入居後に必ず食い違います。下水道の供用が始まっている区域かどうかは、市の下水道を担当する窓口で調べられます。
賃料は工事費から逆算するものではなく、その地域ですでに決まっています。同じ学区、同じ間取り、同じ築年帯で、いま現に募集中の物件を三件以上そろえ、募集賃料、駐車場の台数、募集を始めてからの経過を並べてください。成約事例ではなく募集中の物件を見るのは、入居希望者の目に並んでいるのがその三件だからです。車が一人一台の生活圏では、駐車二台分を確保できるかどうかが間取りより効く場面があります。
立地の説明材料も、この段階でそろえておきます。賃貸の仲介では、水害のハザードマップにおける物件の位置を説明する取扱いが定められており、募集の前に自分で確かめておくと話が早く進みます。天竜川の堤防に近い池田周辺のように、浸水想定の区域と重なる場所では、床上の高さや避難場所までの経路が入居希望者の関心事になります。市が配布しているハザードマップと、過去に浸水した記録があるかどうかを、家族の記憶ではなく資料で確認してください。
税の前提も工事の前に置いておきます。貸して家賃を受け取れば不動産所得として申告が必要になり、工事費は修繕費として支出した年の経費にできる場合と、資本的支出として複数年に配分する場合に分かれる取扱いがあります。さらに、相続した家を売るときの空き家の特例には、相続の時から譲渡の時まで貸付けなどの用に供されていないことという要件があり、貸すという判断そのものが後の税の扱いに影響する可能性があります。適用の可否は必ず税務署または税理士へ確認してください。
ここまで済んで、初めて業者に見積もりを依頼します。依頼するときは、直せるところを見てほしい、ではなく、確認済みの事実と、直したい不具合と、貸す予定の時期を紙にして渡します。同じ紙を二社以上に渡せば、金額だけでなく、どこを問題と見たかの違いが読めます。そのうえで、いつまでに貸すかを決めるという日付を先に置いてください。日付がないと、見積書が集まっただけで一年が過ぎます。
- 登記事項証明書で所有者、持分、抵当権の有無を確認する
- 建築確認済証と検査済証、増築部分の登記の状況を調べる
- 市街化調整区域かどうかと、貸すことへの制約を市の窓口で聞く
- 天井のしみ、床の傾き、食害痕、給湯器の製造年、分電盤を撮る
- 排水が公共下水か浄化槽か汲み取りかを確かめ、年間費用を出す
- 同じ学区で現在募集中の三件の賃料と駐車台数を書き出す
図1見積もりを依頼するまでの六段階
最低限の工事は入居者の安全と衛生で線を引く
直す直さないの線は、見た目ではなく、人がそこで安全に暮らせるかどうかで引きます。この線から下は投資ではなく前提です。
貸主には、賃貸物の使用や収益に必要な修繕を行う義務が原則としてあり、借りた部分の一部が使えなくなったときには、その割合に応じて賃料が減額される取扱いもあります。つまり、直さずに貸した不具合は、値引きか、修繕の請求か、早期の退去という形で後から戻ってきます。最低限の工事とは、入居後に貸主の負担として跳ね返る部分を、募集の前に先払いしておく作業だと考えると線が引きやすくなります。
最優先は雨水と構造です。天井のしみ、押入れのカビ、外壁の縦のひび、基礎の割れ、床の沈み。ここは症状ではなく原因を特定してから発注します。屋根に登らずに散水で経路を確かめる方法もあり、雨染みの位置と水の入口が離れていることは珍しくありません。原因が分からないまま屋根を葺き替えても、入口がサッシの上端なら止まりません。見積書に原因の特定方法まで書かれているかどうかを見てください。
静岡県西部は温暖で、床下の湿気と白蟻の被害は特別な話ではありません。台所、洗面、浴室まわりの土台と柱は、水漏れと食害が重なっていることがあります。床を踏むと沈む、敷居が下がっている、柱に細かい穴と土の道がある。こうした兆候があれば、内装より先に床下を見ます。ここを飛ばして畳とクロスを新しくすると、一年後に同じ場所をもう一度壊すことになります。
生活の可否に直結するのは給湯です。給湯器は本体のラベルに製造年が入っており、メーカーが示す設計上の標準使用期間を大きく越えていれば、入居前の交換を前提に考えます。真冬に止まれば、入居者は風呂に入れません。和式のトイレ、単水栓だけの台所、浴室のバランス釜は、募集の段階で候補から外される理由になりやすい設備です。すべてを新しくする必要はなく、いま使えるか、壊れたときにすぐ直せるかで判断します。
電気は安全と募集の両方に関わります。分電盤に漏電遮断器が付いているか、契約アンペアがいまの家電で足りるか、エアコンを付ける部屋に専用回路と配管の穴があるか。古い家では、エアコンを二台使うとブレーカーが落ちる状態のまま貸してしまう例があります。住宅用火災警報器は設置が義務づけられていますので、寝室と階段の設置状況を確かめ、誰が設置して誰が電池を交換するのかを契約書に書いておきます。
残置物の扱いは、工事費よりも先に決めるべき論点です。家具、仏壇、農機具、物置の中身をそのままにして貸すと、退去のときに誰の物でどう処分するのかが分からなくなります。仏壇や写真、位牌は工事の前に家族で行き先を決めてください。あえて残していく物があるなら、品名と数を書いた一覧を契約書に添え、所有権と処分の権限を明記します。この一枚があるかないかで、退去時の話し合いの長さが変わります。
内装は全面ではなく、目に入る順に絞ります。玄関、水回り、照明、そして臭いです。長く閉め切った家には、線香、たばこ、カビの臭いが畳と壁に残ります。内見で最初に判断されるのはこの臭いで、クロスの張り替えより換気と畳の入れ替えのほうが効くこともあります。襖と障子は単価が読みやすく、和室を残したまま印象を変えられます。カーテンレールと網戸は、なければ入居者が確実に困る小さな設備です。
外まわりにも、募集の前に片づけておく最低限があります。鍵は本数を数えたうえで、シリンダーごと交換するのが基本です。誰に合鍵を渡したか分からない家を、そのまま人に貸すことはできません。門扉やブロック塀にぐらつきがあれば、倒れたときに通行人へ被害が及びます。庭木は道路や隣地へ越境している枝を落とし、境界の目印が枝葉に隠れていないかも見ておきます。空っ風の季節に飛ぶ波板やトタンも、この段階で留め直しておきます。
逆に、この段階で後回しにしてよい工事もはっきりしています。雨漏りのない屋根の葺き替え、外壁の全面塗装、和室の洋室化、システムキッチンの入れ替え、断熱の改修。どれも家の価値としては意味がありますが、入居できるかどうかには直結しません。最低限を終えて一度募集してみると、反応が弱い理由が賃料なのか設備なのか間取りなのかが見えてきます。追加の工事はそれからでも遅くありません。
| 区分 | 対象になる工事 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 先に必ず | 雨漏り、白蟻の被害、床や基礎の沈み | 原因を特定してから発注する。放置すると修繕の範囲が毎年広がる |
| 先に必ず | 給湯器、給排水、便器、電気の安全 | 生活が成り立つかに直結する。募集の前に交換か点検を済ませる |
| 募集の前に | 残置物の撤去、清掃、臭いの処理、畳と襖 | 内見での判断はここで決まる。単価が読みやすく工期も短い |
| 反応を見て | 洗面台や台所の部分交換、照明、網戸、カーテンレール | 一度募集し、見送られた理由を仲介から聞いてから決める |
| 後回しでよい | 外壁の全面塗装、屋根の葺き替え、洋室化、断熱 | 入居できるかには直結しない。回収年数だけが伸びやすい |
回収年数は工事費を家賃ではなく手取りで割る
回収の計算に家賃の総額を使うと、必ず実態より短く出ます。割るべき数は、通帳に残る金額のほうです。
計算式そのものは単純です。工事費を、年間の手取りで割る。年間の手取りとは、月額賃料に十二を掛けた金額から、空室になる月、管理を委託するなら管理料、固定資産税と都市計画税、火災保険料、浄化槽などの維持費、そして将来の修繕に備える分を引いた残りです。この引き算を省くと、回収年数は実際の半分ほどに見えてしまいます。
数字の型だけを示します。以下はすべて計算の形を見るための仮置きで、実際の賃料や税額とは関係ありません。仮に月六万円で貸せて、年間で一か月分の空室を見込むと入ってくるのは六十六万円。ここから管理料、固定資産税と都市計画税、火災保険、浄化槽の維持、修繕の備えを差し引いて、残りが四十二万円だとします。工事費が百五十万円なら回収はおよそ三年半、四百万円ならおよそ九年半です。同じ工事でも、手取りが変われば年数は倍近く動きます。
次に、その年数を分子側の現実と突き合わせます。あと何年貸すつもりかです。建物の状態、家族が保有を続ける意思、本人が戻る可能性、相続の予定。九年半で回収する計画なのに、五年後には売るつもりだという家族が一人でもいれば、その工事は回収されません。回収年数と、貸すと決めている年数を、同じ紙の上下に並べて書いてください。
工事費を積み増しても、賃料は比例して上がりません。地域ごとに募集賃料の上限帯があり、そこを超えると内見そのものが入らなくなります。第一章でそろえた募集中の三件が、その上限を示しています。したがって計算の順番は、工事費を決めてから賃料を決めるのではなく、賃料の上限を先に置いて、そこに見合う工事費の上限を逆算する形になります。
見落とされやすいのが、入れ替わりのたびに出ていく費用です。募集の広告費、仲介の手数料、退去後の原状回復のうち貸主が負担する部分、そして次が決まるまでの空室期間。二年で入れ替わる想定と、六年住んでもらう想定では、同じ賃料でも年間の手取りが変わります。長く住んでもらえる条件を整えるほうが、賃料を千円上げるより効く場面があります。
契約の形も回収計画の前提です。普通借家契約は、期間が来ても貸主の側から更新を断るには正当な事由が必要とされ、返してもらう時期を自分では決められません。将来売る予定や、本人が戻る可能性があるなら、期間の満了で終わる定期借家契約という選択があります。ただし定期借家は書面による契約と、契約前の別の書面による説明が原則として必要で、手順を外すと普通借家として扱われる可能性があります。契約書の作り方は宅地建物取引業者や弁護士へ確認してください。
税の扱いでも手取りは変わります。賃料収入は不動産所得として申告し、管理料、固定資産税、保険料、減価償却費などを必要経費にできる取扱いがあります。工事費は、元の状態に戻す修繕費として支出した年の経費にできる場合と、価値を高める資本的支出として複数年に配分する場合に分かれます。この区分によって手取りの出方が変わるため、金額の大きい工事は着工の前に税理士へ相談しておくと計算が安定します。
工事費は一度に決めきらず、段階に分ける方法もあります。まず安全と生活に関わる範囲だけを直して募集し、二か月ほど反応を見る。内見が入るのに決まらないのか、内見そのものが入らないのかで、次に足すべき工事は変わります。内見が入らないなら賃料か立地条件の問題で、設備を良くしても動きません。内見のあとで見送られているなら、仲介の担当者にその理由を聞き、そこにだけ追加の費用を充てます。最初から全部を直すより、総額は下がることが多くなります。
出てきた年数で判断を分けます。三年以内で回収できるなら、迷わず先に直したほうが募集は楽になります。三年から七年なら、貸す年数と家族の合意が取れているかで決めます。七年を超えるなら、その工事は貸すための投資ではなく、家を残すための支出です。残すと決めているなら構いませんが、賃料で取り戻す前提の計画からは外してください。
- 月額賃料ではなく、引き算した後の年間手取りで割る
- 回収年数と、家族が貸すと決めている年数を並べて書く
- 賃料の上限を先に置き、そこから工事費の上限を逆算する
- 入れ替わりのたびに出る広告費と原状回復費を年額に含める
- 普通借家か定期借家かで、返してもらえる時期が変わることを確認する
| 差し引く項目 | 内容 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 空室になる期間 | 年間で何か月分を空室と見込むか | 退去から次の入居までは、募集開始日ではなく退去日から数える |
| 管理委託料と募集費用 | 毎月の管理料と、入れ替わりのたびの広告費・手数料 | 入居期間が短いほど、年あたりの負担は重くなる |
| 固定資産税・都市計画税 | 土地と家屋の合計。課税明細で筆ごとに確認できる | 宅地以外の畑や私道の持分が別筆で課税されていることがある |
| 火災保険料 | 貸家としての契約条件で見直した後の保険料 | 住まなくなった時点で契約上の扱いが変わる場合がある |
| 維持費と修繕の備え | 浄化槽の点検と清掃、草刈り、設備の故障に備える分 | 給湯器やエアコンは在任中に必ず一度は交換時期が来る |
図2改修に出してよい金額を決めているもの
やらない方がよい工事には共通の型がある
避けたい工事は、豪華な工事ではありません。回収の見込みが立たない工事と、原因を確かめないまま発注する工事です。
一つ目は、相場の上限を超える賃料を前提にした工事です。設備を良くすれば高く貸せるはずだ、という発想から始まります。しかし賃料は、周辺で募集されている同じ条件の物件との比較で決まります。上限が決まっている以上、それを超える部分の工事費は回収の外側に置かれます。募集中の三件を確かめてから発注するだけで、この型はほとんど避けられます。
二つ目は、貸すためではなく気持ちを整理するための全面改装です。実家をきれいにして送り出したいという気持ちは自然なものですが、費用の桁が変わります。全面を直しても賃料は上限帯に収まりますし、売却のときに工事費がそのまま価格へ乗るとも限りません。どうしても直したい場所があるなら、貸すための工事と、家族の気持ちのための工事を別の見積書に分け、金額を並べて見てください。
三つ目は、自分の好みで選ぶ設備です。食器洗い機、床暖房、造作の棚、こだわりの塗り壁。所有者が住むなら価値がありますが、借りる側は多くの場合、家賃と駐車場と学区で選びます。特殊な設備は、壊れたときの修理費と部品の入手性という負担だけが貸主に残ることがあります。賃貸に載せるなら、壊れても同等品にすぐ替えられるものを選ぶのが基本です。
四つ目は、原因を特定しないまま行う対症療法です。雨漏りに外壁塗装、床の沈みに合板の重ね張り、カビに壁紙の張り替え。症状が一時的に隠れるので直ったように見えますが、水と食害は裏で進みます。しかも一度覆ってしまうと、次に呼んだ業者は原因を確かめるために、その工事を剥がすところから始めることになります。費用を二重に払う典型です。
五つ目は、構造に触れる間取りの変更です。和室二間を一つの広い部屋にする、壁を抜いて対面式の台所にする。古い木造では、抜いてよい壁とそうでない壁の判断が要り、耐震の考え方とも重なります。費用は内装工事とは桁が変わり、工期も延びます。貸すことが目的なら、間取りを変えずに、使い方の説明や家具の配置例を工夫するほうが費用対効果は高くなります。
六つ目は、訪ねてきた業者にその場で発注する工事です。空き家は外から見て分かります。屋根がずれている、無料で点検すると言われても、屋根には上がらせず、その場で契約書に署名しないでください。訪問販売で契約した場合には、原則として一定の期間内であれば書面によって申込みの撤回や解除ができる制度がありますが、工事が進んでからでは元へ戻す話が難しくなります。近隣で施工実績のある業者に、こちらから声を掛ける形へ戻してください。
七つ目は、補助制度があることを前提に組んだ工事です。耐震や空き家の改修に関する支援は市町ごとに内容も枠も異なり、着工した後では対象にならない仕組みが一般的です。制度名や金額を人づてに聞いた話で決めず、市の住宅や建築を担当する窓口で、今年度の条件、申請の時期、着工との前後関係を確認してください。年度の途中で受付が終わることもあります。
八つ目は、範囲を口約束のまま始める工事です。空き家の改修は、壊してみて分かることが必ず出てきます。だからこそ、契約書に工事の範囲、工期、追加費用が生じたときの決め方、支払いの時期を書いておく必要があります。追加は口頭で了解した、という進め方をすると、最後に総額が膨らんでも比べる基準が残りません。着手金の割合が高すぎないか、施工中の写真を残してもらえるかも、依頼の前に確かめておきたい点です。
九つ目は、売却や相続の予定を確かめないまま進める工事です。相続した家を売るときの空き家の特例には、相続の時から譲渡の時まで貸付けなどの用に供されていないことという要件があり、貸すという判断が後の税の扱いに影響する可能性があります。工事の前に、家族の中で売る話が出ていないかを一度確かめ、税務の見通しは税理士へ相談してください。
- その工事で賃料がいくら上がるのかを、募集事例で説明できるか
- 貸すための工事と、気持ちのための工事を別の見積書に分けたか
- 雨漏りや沈みについて、原因の特定方法が見積書に書かれているか
- 訪問してきた業者と、その場で契約していないか
- 補助制度は着工前に窓口へ確認したか
- 工事の範囲、工期、追加費用の決め方、支払い時期が契約書にあるか
| 止めたい工事 | 代わりに確かめること |
|---|---|
| 相場より高く貸す前提の設備投資 | 募集中の三件の賃料。上限帯を超えた分は回収の外に出る |
| 雨漏りの原因を調べない外壁塗装 | 散水などで水の入口を特定し、その方法を見積書に書かせる |
| 畳とクロスを先に新しくする内装工事 | 床下と土台の状態。沈みや食害があれば内装は後回しにする |
| 訪問営業からその場で決める屋根工事 | 屋根には上げず、後日こちらから複数社へ声を掛け直す |
| 補助金があると聞いて先に始める改修 | 市の担当窓口で今年度の条件と、着工前に申請が要るかを確認する |
現状のまま貸す道と、貸さない判断の分かれ目
直してから貸すことだけが選択肢ではありません。不具合を書面で示して貸す方法と、貸さずに次へ進む判断が残っています。
現況のまま貸す方法は実際にあります。不具合を隠すのではなく、契約の前に一覧にして示し、どこまでを貸主が直し、どこからを借主が受け入れるのかを特約で決める形です。ただし、貸主の修繕義務を無条件にすべて外せるとは限らず、書き方によっては効力が問題になる場合があります。特約の文言は、宅地建物取引業者や弁護士に確認したうえで使ってください。
借主が自分で手を入れることを前提にした貸し方もあります。借主の負担で改修を行う方式では、工事の承諾をどう取るか、費用を誰が負担するか、退去のときに元へ戻す義務をどうするかを、契約の段階で書面にしておくことが要点とされています。手を入れたい借主にとっては魅力があり、貸主は初期の費用を抑えられます。承諾する工事の範囲と、承諾しない工事の線引きを先に決めておくのがこつです。
賃料を相場より下げ、その代わりに修繕の範囲を限る方法もあります。年間の手取りは減りますが、初期の工事費がゼロに近づくため、回収年数という考え方自体が要らなくなります。空き家のまま維持する費用と比べれば、下げた賃料でも家計の収支は改善することがあります。ただし賃料を下げるほど使われ方の幅も広がるため、契約の条件と管理の担当は、通常より丁寧に決めておく必要があります。
借り手を一般の入居希望者だけに限らない考え方もあります。近隣の事業所の社宅、単身赴任者の住まい、地域の団体の活動場所。建物を貸さずに、駐車場や資材置き場として敷地の一部だけを貸す形もあります。掛塚のように道が細く工事車両の入りにくい場所や、周囲を農地に囲まれた立地では、住宅としての募集より、土地の使い道のほうが先に決まることもあります。
借上げや一括転貸の提案を受けることもあります。空室でも賃料が入るという説明があっても、契約書には賃料を見直す条項が入っているのが通常です。この種の契約については、勧誘の仕方や契約前の説明に関する法律上の取扱いが定められており、重要な事項の説明を受けたうえで判断する仕組みになっています。説明を受けた書面は必ず手元に残し、賃料が変わる条件と、途中で解約するときの扱いを読んでから決めてください。
貸さないと決めた場合も、置いておくだけという選択にはなりません。適切な管理が行われていない空き家については、法律に基づく制度があり、市町からの助言や指導、勧告といった段階が定められています。勧告を受けた場合には、住宅用地に対する固定資産税の課税の特例の取扱いが変わることがあるとされています。貸さないなら、巡回の担当、頻度、草刈りの手配を先に決めてください。
直して貸す、現状で貸す、貸さずに売る。この分かれ目は二つの問いで整理できます。一つは、雨漏りや白蟻、給湯や電気といった安全と生活に関わる不具合が残っているか。もう一つは、その修繕費をいま出せる状態にあるか。この二つの組み合わせで取るべき道はおおむね決まり、下の図はその四つの区分を示したものです。
誰が管理を担うのかも、貸す前に決めておく条件です。遠方に住んでいるなら、雨漏りの連絡、設備の故障、近隣からの苦情に、その日のうちに動ける人が要ります。管理を不動産会社へ委託するか、家族の誰かが担うか。委託する場合は、対応する範囲、緊急時の連絡先、費用の内訳を契約前に確認します。管理の担い手が決まらないまま募集を始めると、真夏に給湯器が止まった日曜日に、誰も電話に出られないという状態になります。
最後に日付を入れます。募集を始める日、反応を見て条件を見直す日、そして貸すことをやめて売却や解体の検討へ移る判断日。この三つを先に決めておくと、募集が動かないときに何もしない期間が生まれません。実家の判断でいちばん費用がかかるのは、間違った工事よりも、決めないまま過ぎていく年数のほうです。
- 不具合を隠さず、一覧にして契約前に示したか
- 貸主の修繕義務をどこまで特約で定めるか、専門家に確認したか
- 残置物の所有権と処分の権限を書面に残したか
- 借上げの提案は、賃料改定と解約の条項を読んでから判断したか
- 貸さない場合の巡回と草刈りの担当を決めたか
- 入居後の故障や苦情に、その日のうちに動ける管理の担い手を決めたか
- 募集開始日、条件を見直す日、売却検討へ移る判断日を決めたか
| 項目 | 書いておく内容 |
|---|---|
| 不具合の一覧 | 把握している不具合を、場所と症状と確認日で列挙する |
| 修繕の分担 | 貸主が直す範囲、借主が受け入れる範囲、費用の負担者を分ける |
| 残置物 | 残す物の品名と数、所有権、退去時に処分してよいかどうか |
| 借主が行う改修 | 承諾が要る工事と要らない工事、退去時に元へ戻す義務の有無 |
| 契約の期間 | 普通借家か定期借家か。定期借家なら契約前の書面による説明の有無 |
図3不具合と修繕費で、取るべき道を四つに分ける
このページ固有の確認メモ
ここからは「実家を貸す前にリフォームすべき?費用をかける前の現状確認」で特に確認したい内容を、事実、避けたい判断、手元資料に分けて示します。すべてを一度に終える必要はありません。確認できた項目には日付と根拠を添え、分からない項目には担当者と再確認日を付けてください。家族が別々の時間に作業しても、同じ一覧へ戻れる状態を目指します。
確認しておく事実
この欄は、方針を決める前に共有したい事実です。家族の記憶だけで確定せず、通知書、契約書、公式ページ、撮影日が分かる写真など、確認に使った根拠を隣へ書きます。該当しない項目も削除せず「該当なし」とした理由を残すと、後から同じ調査を繰り返さずに済みます。
- 工事の見積もりは最後。名義、法規、建物、賃料相場の順で先に確かめる
- 最低限の工事は、安全と衛生と生活の可否という線で決まる
- 回収年数は、賃料の総額ではなく引き算した後の年間手取りで割る
- 賃料には地域ごとの上限帯があり、工事費に比例して上がらない
- 普通借家か定期借家かで、返してもらえる時期の前提が変わる
- 貸すという判断が、相続した家を売るときの税の扱いに関わる場合がある
- 現況のまま貸す、賃料を下げる、敷地だけ貸すという道も残っている
避けたい判断
この欄に当てはまる可能性があるときは、契約や処分をいったん止めます。一般例を対象の家へ当てはめたのか、資料で確かめたのかを区別し、不足情報を質問へ直してください。法務、税務、測量、建物、行政など別分野の判断が必要なら、回答できる相談先へ切り分けます。
- 名義や共有の状態を確かめないまま、工事を発注してしまう
- 雨漏りの原因を特定しないまま、屋根や外壁の工事を先に決める
- 床下と土台を見ずに、畳とクロスだけを新しくする
- 賃料の総額で割って、回収年数を実際の半分ほどに見積もる
- 訪問してきた業者に、その場で点検と工事を任せてしまう
- 補助制度があると聞いて、窓口に確認する前に着工してしまう
手元で探すもの
見つけた資料には名称、発行年、原本の保管者を記します。古い資料も経緯を知る手掛かりになるため、最新版と違うだけで捨てないでください。見つからない場合は空欄にせず、再取得できるか、誰に所在を尋ねるか、いつ再確認するかを決めると次の相談準備になります。
- 登記事項証明書の所有者と持分
- 建築確認済証と検査済証の有無
- 市街化調整区域かどうかと貸すことへの制約
- 天井のしみと床の傾き、柱の食害痕
- 給湯器の製造年と分電盤の状態
- 排水の方式と浄化槽の年間費用
- 残置物の品名と数、処分の担当
- 同じ学区で募集中の三件の賃料と駐車台数
- 年間の手取りと、そこから出した回収年数
- 普通借家か定期借家かの選択
- 募集開始日と、条件を見直す日
よくある質問
貸す前にどうしても直さなければいけない工事はありますか
工事の一覧が先にあるのではなく、安全と生活の可否という線で決まります。雨漏り、白蟻の被害、床や基礎の沈み、給湯器、給排水、電気の安全。この範囲に該当する不具合は、直さずに貸しても、賃料の減額や修繕の請求という形で貸主の負担として戻ってくる取扱いがあります。外壁の塗装や洋室化は、この線の外側です。
全面リフォームすれば家賃を高くできますか
賃料には地域ごとの上限帯があり、工事費に比例して上がるわけではありません。同じ学区、同じ間取り、同じ築年帯で現在募集中の物件を三件そろえると、その上限が見えます。工事費を決めてから賃料を決めるのではなく、賃料の上限を置いてから工事費の上限を逆算してください。
直さずにそのまま貸すことはできますか
不具合を隠さず一覧にして示し、貸主が直す範囲と借主が受け入れる範囲を特約で決める形は実際にあります。借主の負担で改修してもらう方式もあります。ただし貸主の修繕義務を無条件にすべて外せるとは限らないため、特約の文言は宅地建物取引業者や弁護士に確認したうえで使ってください。
工事費はいくらまでかけてよいですか
工事費を年間の手取りで割った回収年数が、家族が貸すと決めている年数の中に収まるかで見ます。手取りは、賃料の年額から空室、管理料、固定資産税と都市計画税、火災保険、維持費、修繕の備えを引いた残りです。回収が七年を超える工事は、賃料で取り戻す計画からは外して考えてください。
貸すと、あとで売るときの税金に影響しますか
影響する可能性があります。相続した家を売るときの空き家の特例には、相続の時から譲渡の時まで貸付けなどの用に供されていないことという要件があり、貸すという判断そのものが後の扱いに関わります。要件と適用の可否は国税庁の案内を確認したうえで、必ず税務署または税理士へ相談してください。
名義が親のままですが、子が貸す契約をしてよいですか
原則として契約するのは登記名義人です。共有の場合、建物の賃貸借は期間が三年を超えないものであれば持分の価格の過半数で決められる取扱いがあり、それを超える期間や大きな変更には共有者全員の同意が必要と整理されています。名義が先代のままなら相続登記の話が先に来ます。個別の可否は司法書士や弁護士へ確認してください。
公式出典・確認先
制度や受付条件は変わることがあります。最終判断の前に、リンク先の最新情報と担当窓口を確認してください。
- ふじがおか実家カルテ|住所で分かること(fudosan.atawi.link)カルテで整理する範囲と、現地・専門家確認が必要な範囲を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続登記の申請義務化について(www.moj.go.jp)相続登記の基本的義務、遺産分割成立後の追加的義務、経過措置を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続人申告登記について(www.moj.go.jp)遺産分割がまとまらない場合の申告登記と必要書類を確認確認日:2026-08-27
- 国土交通省|空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報(www.mlit.go.jp)管理不全空家等・特定空家等に関する制度と指針を確認確認日:2026-08-27
- 国土交通省|空き家対策 特設サイト(www.mlit.go.jp)管理不全空家制度の概要と所有者が行う管理の考え方を確認確認日:2026-08-27
- 国税庁|被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(www.nta.go.jp)適用期間、対象家屋、相続人数による控除限度額等を確認確認日:2026-08-27

