親の実家を貸せる?賃貸募集の前に確認する名義・修繕・設備
誰も住まなくなった実家を、売らずに貸すという選び方があります。家賃が入れば固定資産税も保険料も自分の財布から出さずに済み、風を通す人がいる分だけ建物も傷みにくい。そこまでは多くの方が思い描くとおりです。ただ、貸すという行為は他人に家を使わせる契約を結ぶことなので、掃除と片付けが終われば始められるものではありません。契約に署名できる人が誰なのか、その建物が人の暮らしに耐えるのか、いくら直せば募集を出せるのか、そして貸したあとに自分の都合で返してもらえるのか。この四つがそろって初めて、家賃の額を話す意味が出てきます。このページでは、磐田市・袋井市とその周辺で実家を貸すことを考えている方に向けて、募集を出す前に確かめる順番を、名義、設備、修繕費、募集条件、貸したあとの制約という五つに分けて並べます。金額も制度の適用も家ごとに違うので、額を断定せず、どこで何を確かめれば自分の家の数字が出るかを示します。

まず結論
順番があります。第一に、契約できる人を確定させる。登記の名義が親のままか、きょうだいの共有か、相続がまだ済んでいないかで、貸主になれる人と必要な同意が変わります。第二に、建物が賃貸に耐えるかを部屋ではなく設備単位で見る。給湯器、浴室、排水、電気容量、耐震。第三に、貸すために必須の修繕と、後回しでよい修繕を分けて見積もる。第四に、手取りから家賃を逆算し、普通借家か定期借家かを先に決める。第五に、貸したあとに戻せないことを数えておく。この五つを飛ばして募集を出すと、家賃が入り始めてから引き返せなくなります。
貸す前に、契約できる人と要る同意を確かめる
貸すというのは賃貸借契約を結ぶことです。誰が署名できるのかは登記で決まっていて、片付けの進み具合とは関係がありません。ここが未確定のまま募集を始めると、入居希望者が現れた段階で必ず止まります。
まず登記事項証明書を取ってください。法務局の窓口でもオンラインでも請求でき、所有者以外の家族でも取得できます。必要なのは住所ではなく地番で、普段使っている住居表示とは別の番号です。地番は固定資産税の納税通知書に付いてくる課税明細書、権利証や登記識別情報、昔の売買契約書のいずれかに載っています。どれも見当たらないときは、法務局の窓口に備えてある地図で場所から探せます。土地と建物は別々の登記なので、必ず両方を請求してください。
証明書が手元に来たら、表題部、甲区、乙区の三つに分けて読みます。表題部には所在、地番、家屋番号、床面積、構造、建てられた年が載ります。甲区は所有者の欄で、ここに名前のある人が原則として貸主になれる人です。乙区には抵当権や賃借権などが載ります。とうに完済しているのに抵当権の登記だけ残っている家は珍しくなく、貸すこと自体を妨げはしませんが、売却へ切り替える段になると抹消の手続きが要ります。
名義が親のままで、親に判断能力があるうちは、貸主は親本人です。子が窓口を担うなら委任状を作り、募集の依頼までなのか、契約の締結や賃料の受領まで含むのかを書き分けます。範囲のあいまいな委任状は、仲介や管理を頼む先で受け取ってもらえないことがあります。賃料がどの口座へ入るのか、確定申告を誰の名前で行うのかも、この時点で決めておくと後で言い合いになりません。
親が施設へ移り、契約の中身を理解することが難しくなっている場合は、子が代わりに署名して契約を成立させることはできません。成年後見の制度を使う道はありますが、後見人が付いても本人の居住用の不動産については家庭裁判所の許可を要する取扱いがあり、貸すという行為がどこまで含まれるかは事情によって判断が分かれます。入所の直後に急いで募集をかけるのではなく、先に司法書士や弁護士へ現状を示してください。
親が亡くなっている場合は、相続登記が先に来ます。相続によって不動産を取得したことを知った日から三年以内に申請する義務が定められ、遺産分割がまとまらないときのために相続人申告登記という手続きも用意されています。ただし申告登記は義務を果たすためのもので、これだけで貸主が決まるわけではありません。誰の名前で契約し、誰が賃料を受け取るのかは、遺産分割の話し合いで決める必要があります。
共有になっている家は、ここでいちばん詰まります。貸し出す行為が持分の過半数で決められる管理の範囲に入るのか、共有者全員の同意が要る範囲に入るのかは、契約の期間や内容によって扱いが変わります。短く区切った賃貸と、長い期間の契約や大きな改修を伴う貸し方では判断が違ってくるため、期間を決める前に司法書士へ相談してください。同意を取るときは口頭で済ませず、期間と賃料の分け方を書いた書面を残します。
土地が借地なら、建物を人に貸すことについて地主の承諾が要るかどうかを借地契約書で確かめます。承諾料が発生するかどうかも契約書次第です。敷地に続けて田や畑があり、そこも一緒に使ってもらう前提なら、農地の権利を動かすには別の手続きがあるため、宅地の部分と切り分けて考えます。市街化調整区域にある家は、使い方を変えることに制限がかかる場合があるので、建てたときの許可の内容を市の窓口で確認してください。
最後に、登記には出てこない同意があります。仏壇はそのまま置いておきたい、盆には親族が集まる、近くに住むきょうだいが庭木の世話を続けている。こうした事情は権利ではありませんが、他人が住み始めてから表に出ると止められません。誰が何を続けたいのかを先に聞き取り、貸す範囲から外す部分があるなら、母屋と納屋を分ける、駐車場の一台分を家族用に残すといった形で、契約前に線を引いておきます。
- 登記事項証明書を、土地と建物の両方について取る
- 甲区の所有者と、乙区の抵当権・賃借権を読み分ける
- 共有なら持分の割合と、連絡が取れない人の有無を書き出す
- 委任状の範囲を、募集・契約・賃料受領のどこまでかで区切る
- 家族が使い続けたい場所と時期を、貸す範囲から先に外す
| いまの状態 | 貸主になれる人 | 先に済ませること | 主な相談先 |
|---|---|---|---|
| 親が単独名義・判断できる | 親本人 | 委任の範囲を書面にし、賃料の入金先を決める | 賃貸の仲介・司法書士 |
| 親が単独名義・判断が難しい | 本人に代わる権限の確認が要る | 現状を示して制度の要否から相談する | 司法書士・弁護士・地域包括支援センター |
| 相続がまだ済んでいない | 相続人全員の関与が要る | 相続登記の申請。まとまらなければ申告登記 | 司法書士 |
| きょうだいの共有 | 持分の割合と契約内容による | 期間と賃料の分け方を書面で合意する | 司法書士 |
| 抵当権の登記が残っている | 甲区の名義人 | 完済済みかどうかを乙区と金融機関で確認 | 司法書士・金融機関 |
| 建物は自分・土地は借地 | 建物の名義人 | 地主の承諾が要るかを借地契約書で確かめる | 地主・司法書士 |
図1募集を出せる状態になるまでの順番
賃貸に耐えるかどうかは、間取りではなく設備で決まる
内見に来た人が黙って帰る理由は、部屋数や広さではなく、水回りと冬の寒さです。築年数の古い家ほど、直すかどうかの判断は設備を一つずつ数えるところから始まります。
最初に見るのは給湯器です。本体の側面に製造年の入った銘板があり、十年を超えているなら交換を前提に考えます。都市ガスかプロパンかで機種も費用も変わり、この地域は市街地の一部を除いてプロパンの家が多く、ボンベの置き場所とガス会社との契約が付いてきます。追い焚きができるかどうかも借り手の判断に響き、給湯だけの古い釜のままでは、子育て世帯に向けた募集で不利になります。
浴室は、在来工法のタイル貼りか、ユニットバスかで大きく分かれます。タイル貼りにバランス釜が付いた浴室は、冬の冷え込みと掃除のしにくさで敬遠されやすく、床のひび割れから下の土台が傷んでいることもあります。ユニットバスへ入れ替えると床下の配管や土間の状態まで手が入るため、工事は数日で終わっても費用は大きい部類です。入れ替えないなら、その分だけ賃料を下げて募集するという判断もあります。
台所は、流し台の高さとコンロの設置寸法を測っておきます。古い規格の流し台は今の標準より低く、背の高い人には使いにくい。コンロがガスの種類に合っているか、備え付けなのか置き型なのかで、入居者が自分の器具を持ち込めるかどうかが変わります。洗面台が無く、台所か浴室の蛇口で顔を洗う造りの家もあり、その場合は洗面化粧台を入れるかどうかが募集条件に直結します。
排水の方式は、公共下水道、合併処理浄化槽、単独処理浄化槽、汲み取りのどれかです。下水道の来ている区域なら、接続の要否と時期を市の下水道の担当窓口で確認してください。浄化槽なら保守点検、清掃、法定検査の年間費用が発生し、これを貸主と借主のどちらが負担するのかを契約書に書いておかないと、後で必ず問い合わせが来ます。汲み取りのままでの募集は、対象になる入居者がかなり絞られます。
洗濯機の置き場が屋外にしかない家では、防水パンと給排水を室内に新しく設けられるかを見ます。勝手口の土間や納戸の一角を使えることが多く、費用のわりに募集への効き目が大きい部分です。冷暖房は、機器が付いているかどうかよりも、壁のスリーブ穴と専用のコンセントがあるかを確認します。穴の無い部屋は入居者が自分で付けようとしても工事を断られることがあり、貸主側で先に用意したほうが早く決まります。
電気は、契約している容量と分電盤を見ます。三十アンペア以下のままだと、電子レンジとドライヤーと冷暖房が重なるだけで落ちます。分電盤に漏電を遮断する装置が付いているか、回路の数が足りているかも確認の対象です。天井裏に古い配線が残っている家では、電気工事店に一度見てもらい、増やせるかどうかと概算を聞いておきます。ここを飛ばすと、入居後の停電の連絡が貸主のところへ来続けます。
昭和五十六年五月三十一日以前に建築確認を受けた建物は、いわゆる旧耐震の基準で建てられています。貸すために耐震補強が義務づけられているわけではありませんが、診断と補強に対する補助の制度を市が設けている場合があるため、建てた年の分かる書類を持って建築の担当窓口へ相談してください。窓が単板ガラスのままなら、冬の空っ風が正面から当たる面だけでも内窓を足すという、段階的な直し方があります。
水の引き込みと火災警報器も見落としやすい部分です。井戸水だけで暮らしてきた家では、上水道が引かれているか、引かれていても止水栓から先が生きているかを確かめます。引込管の口径が細いと、二階の蛇口と風呂を同時に使ったときに勢いが落ちます。住宅用の火災警報器は寝室と階段に設けることが原則として求められており、電池式のものは十年ほどで交換の目安が来ます。募集を出す前に全数を押して、鳴るかどうかを一つずつ確かめてください。
最後に、建物そのものの傷みです。天井や壁に浮かぶ茶色い染み、押入れの奥のかび臭さ、畳の縁の沈み、浴室まわりの柱の柔らかさ。台風のあとに屋根から水が回った跡は、晴れた日の内見では見えません。床下と小屋裏を見てもらい、白蟻の被害と雨漏りの履歴を先に確定させます。仏壇、農具、納屋の中身といった残置物も、貸す前に行き先を決めておかないと、そこだけ物置として残す約束が後の紛争の種になります。
- 給湯器の銘板を写真に撮り、製造年とガス種を控える
- 浴室・台所・洗面・便所の四点を、部屋単位ではなく設備単位で記録する
- 排水の方式と、浄化槽なら年間の点検・清掃・検査の費用を確かめる
- 分電盤を開けて回路数を数え、冷暖房用の専用回路の有無を見る
- 床下と小屋裏に人を入れて、雨漏りと白蟻の履歴を先に確定させる
| 設備 | 確かめること | そのままだとどうなるか |
|---|---|---|
| 給湯器 | 銘板の製造年、ガスの種類、追い焚きの有無 | 入居中に止まり、夜間の緊急対応と手配に追われる |
| 浴室 | 在来かユニットか、床のひび、脱衣室の寒さ | 子育て世帯や長期の入居を望む人に決まりにくい |
| 台所 | 流し台の高さ、コンロの寸法と適合するガス種 | 器具を持ち込めるかが分からず、内見のたびに質問が来る |
| 排水 | 下水道か浄化槽か汲み取りか、年間の維持費 | 浄化槽の費用の負担者が決まっておらず後で揉める |
| 電気 | 契約容量、分電盤の回路数、冷暖房の専用回路 | 入居後にブレーカーが落ちるという連絡が続く |
| 建物 | 床下と小屋裏、雨漏りの跡、白蟻の被害 | 内装だけ直しても、短い期間でやり直しになる |
修繕費は、貸すために要る分と後でよい分に分ける
見積書が一枚だけ手元にあっても、判断はできません。同じ現場でも、誰に見てもらうかで出てくる金額と工事の範囲が変わるからです。総額ではなく行ごとに読みます。
直す箇所を三つに仕分けます。一つ目は、これが無いと貸せないもの。給湯器が動かない、雨漏りが止まっていない、排水が流れない、電気の容量が足りない。二つ目は、賃料や決まる早さに効くもの。浴室の入れ替え、内装のやり替え、洗面台の新設。三つ目は、貸主が自分の資産を守るために行うもの。屋根や外壁、白蟻の予防。この三つが混ざったままの見積書で総額だけを眺めると、判断ができなくなります。
見てもらう相手は一種類ではありません。工務店やリフォーム会社は工事の側から、賃貸の仲介担当は募集の側から、建築士は建物の安全の側から同じ家を見ます。仲介担当が要らないと言った工事を工務店が勧めることもあり、どちらかが間違っているのではなく、見ている目的が違うだけです。三者に同じ日に立ち会ってもらい、その場で意見の食い違いを出してしまうほうが、後から一人ずつ往復するより早く決まります。
相見積りは、安い会社を選ぶためではなく、範囲をそろえるために取ります。同じ図面、同じ数量、同じ仕様でなければ比べようがありません。一式とだけ書かれた行は、何をどこまで含むのかを分けて書き直してもらってください。処分費、足場、養生、既存部分の撤去、駐車場代のように、後から追加になりやすい項目を最初から見積書へ載せてもらうと、着工後に金額が動く幅が小さくなります。
工事の順番は、外から内へです。屋根と外壁で水の入り口をふさぎ、床下の白蟻と腐りを処理し、それから水回りの設備を入れ替え、最後に内装を仕上げます。逆にすると、貼ったばかりの壁紙を剥がして直すことになります。壁を開けたときにしか分からないことがあるため、解体してから追加が出る前提で、総額の一割から二割ほどの余裕を予算に持たせておくと、途中で工事が止まりません。
金額はここでは断定できません。同じ給湯器の交換でも、設置場所、配管の引き直し、ガス種の変更が絡むかどうかで変わります。それでも、給湯器や洗面台の入れ替えは数万円から数十万円の幅、浴室の入れ替えや内装の全面やり替えは数十万円から百万円台、屋根と外壁まで含めると百万円単位という感覚を持っておくと、見積書を開いたときの驚きが減ります。実額は現地を見た事業者の書面で確かめてください。
改修にかけた額を月々の家賃で割ると、何か月分かが出ます。ここで使う家賃は募集の賃料そのものではなく、管理料と空室の期間を引いたあとの手取りです。年間十二か月のうち何か月埋まるかを控えめに置いて計算します。十年貸す前提でも戻ってこない工事は、賃料を上げるための投資ではなく、資産を守る支出として別の理由から判断することになります。
直さずに貸すという道もあります。現状のまま引き渡し、入居者が自分で手を入れることを認める代わりに賃料を下げる形です。原状回復の範囲、入居者が付けた造作の扱い、退去のときに誰が撤去するのかを契約書で細かく決める必要があり、扱い慣れた仲介会社も限られますが、古い家の借り手が付きやすい形ではあります。工事費を先に出す余裕が無い場合の、現実的な選び方です。
見積りを取る時期にも向き不向きがあります。台風のあとや年度末は、地元の工務店が手一杯で、現地を見に来てもらうまでに何週間もかかることがあります。募集を始めたい時期が決まっているなら、その三か月ほど前には声をかけておくと工程が組めます。あわせて、耐震の診断や改修、空き家の活用に対する補助の制度を市が設けている場合があり、多くは着工前の申請が条件です。工事を発注する前に、市の担当窓口で今年度の要件と受付の期間を確かめてください。
かけた費用が、その年の必要経費になるのか、資産に計上して年数をかけて費用にしていくのかは、工事の中身によって扱いが分かれます。貸し始める前に行った工事と、貸したあとに行った工事とで考え方が違う場合もあります。判断は税理士へ渡してください。渡すときは、見積書と請求書だけでなく、着工前と完了後の写真、工事の範囲を書いた仕様書を一緒にすると、確認が短い時間で済みます。
- 見積書の一式という行を、含む範囲と数量まで分けて書き直してもらう
- 処分費・足場・養生・撤去・駐車場代が入っているかを確かめる
- 工事の順番を、屋根と外壁、床下、水回り、内装の順で組む
- 解体後の追加に備えて、総額の一割から二割を予算に残す
- 着工前と完了後の写真、仕様書、請求書をひとまとめにして保管する
| 区分 | 含まれる工事の例 | 判断の基準 |
|---|---|---|
| 貸すために必須 | 止水、給湯器、排水、電気容量の増設、火災警報器 | これが無いと募集を出せない。額に関わらず先に行う |
| 賃料と決まりやすさに効く | 浴室の入れ替え、内装のやり替え、洗面台、冷暖房 | 改修費を手取り家賃で割り、何か月で戻るかで決める |
| 資産を守るために行う | 屋根、外壁、白蟻の予防、傾いた庭木の伐採 | 家賃では戻らない。売る場合の価格と安全の側から判断する |
| 急がないもの | 門扉や塀の見た目、庭石の整理、納屋の内部 | 入居後でもできる。最初の予算からは外しておく |
図2同じ家を、四つの立場が違う目的で見ている
家賃は相場ではなく、手取りと契約の型から決める
募集の賃料は、近隣の広告を眺めて決めるものではありません。手元に残る額と、何年で返してもらえる契約かを先に決めると、出せる賃料の幅は自然に絞られます。
参考にする数字には、いま募集に出ている賃料と、実際に決まった賃料の二種類があり、判断に役立つのは後者です。戸建ての賃貸は集合住宅ほど事例が多くないため、一つの数字ではなく幅で受け取ってください。仲介会社へ依頼するときは、直近で決まった同じくらいの規模の戸建てが何件あり、募集からどれくらいの期間で決まったかを聞くと、賃料と空室の長さが同時に見えます。
この地域で戸建てを借りるのは、駐車場を二台使いたい家庭、集合住宅では飼えない動物のいる世帯、転勤で数年だけ住む人、庭や納屋を仕事に使いたい人などです。単身の勤め人はアパートへ向かうため、部屋数の多い古い家をそのまま単身向けに出しても動きません。誰に向けて出すのかを先に決めてから、必要な設備と募集を始める時期を合わせていきます。
賃料から引かれるものを並べます。管理を頼むなら管理料、固定資産税と都市計画税、火災保険料、浄化槽など共用設備の維持費、そして毎年の修繕に充てる分。ここからさらに、空室の期間を引きます。十二か月のうち十一か月しか埋まらないと置くだけで、手元に残る額は一割近く変わります。この計算をしたうえで、貸さずに持ち続けた場合の年間の持ち出しと並べて比べてください。
管理の頼み方は大きく三つあります。自分で入居者とやり取りする自主管理、家賃の集金と入居者対応を任せる集金代行、会社が借り上げて転貸する形。遠方に住んでいるなら自主管理は現実的ではありません。借り上げの形は空室でも一定額が入りますが、賃料を見直す条項がどうなっているかで数年後の姿が変わるので、改定に関する条項は人任せにせず自分で読んでください。
契約の型は、更新のある普通借家と、期間が来たら終わる定期借家に分かれます。将来この家を使うかもしれない、数年のうちに売るかもしれないという事情があるなら、定期借家を検討します。定期借家は、更新が無い契約であることを契約書とは別の書面であらかじめ説明することが原則として必要で、この手順を落とすと普通の契約として扱われる場合があります。仲介会社が慣れているかを先に確かめてください。
敷金、礼金、原状回復の負担区分は、賃料と同じ紙の上で決めます。畳の日焼けや壁紙の経年による変化は貸主の負担とするのが原則的な考え方で、これを借主へ全額請求する条件は後から通りません。入居の前に、各部屋の四隅、水回り、床、建具を写真に撮って日付とともに残しておくと、退去のときの話し合いが短く済みます。古い家ほど、この記録が効いてきます。
連帯保証人を立てる場合は、保証する上限の額を契約書に定めることが必要とされています。いまは保証会社を使う形が一般的で、家賃の滞納だけでなく明渡しにかかる費用まで対象になるかは商品ごとに違います。入居者には家財の保険と借家人の賠償責任の特約を付けてもらい、貸主側は建物の火災保険を賃貸中の建物として扱ってもらえるよう、契約先へ使い方が変わったことを伝えます。
募集条件の細かい部分も、先に決めておくほど後の判断が速くなります。動物を飼うことを認めるのか、認めるなら種類と頭数、退去のときの消臭や壁の補修をどう扱うのか。停められる車の台数と、置く位置。庭木や草の手入れを誰が行うのか。納屋や物置を貸す範囲へ含めるのかどうか。これらを決めないまま募集を出すと、内見のたびに条件が動き、先に見た人との間で説明が食い違います。仲介会社へ渡す資料に、一枚の条件表として添えておくのが確実です。
募集を始める時期は、工事の完了予定日から逆算します。転勤や入学に合わせて動く人が多いため、内見できる状態を作れる日を仲介会社へ伝え、写真の撮影日と広告の掲載日を決めます。賃料が入り始めたら、不動産所得として申告が必要になります。減価償却の取り方、貸す前の工事費の扱い、青色にするかどうかは初年度に決めておくと後が楽です。この部分は税理士へ相談してください。
- 直近で決まった同規模の戸建ての賃料と、決まるまでの期間を聞く
- 管理料・税・保険・修繕積立・空室分を引いた手取りを先に出す
- 普通借家か定期借家かを、家族の将来の予定から決める
- 原状回復の負担区分を条件に書き、入居前の写真を日付付きで残す
- 保証会社の利用と、連帯保証人を立てる場合の上限額を決めておく
- 動物・駐車台数・庭の手入れ・納屋の扱いを条件表にして仲介へ渡す
| 方式 | 貸主の手間 | 入るお金の形 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 自主管理 | 入居者からの連絡を直接受ける | 賃料がそのまま入る | 家の近くに住み、修理の手配ができる人 |
| 集金代行 | 窓口は会社。判断は貸主が行う | 賃料から管理料が引かれる | 遠方に住み、判断は自分でしたい人 |
| 借り上げ・転貸 | 日常の対応は会社が行う | 空室でも一定額。改定条項に左右される | 手間を減らしたいが、条項を読み込める人 |
| 募集だけ依頼 | 契約後は自分で対応する | 賃料がそのまま入る | 一件だけを短い期間だけ貸す人 |
貸したあとに戻せないことを、先に数えておく
賃貸でいちばん見落とされるのは、始める条件ではなく終わらせる条件です。人が住み始めた家は、貸主の都合だけでは返ってきません。ここを読んでから募集の判断をしてください。
更新のある普通借家では、貸主の側から契約を終わらせるには正当な事由が要るとされ、期間が満了する一年前から六か月前までの間に通知することが原則です。通知を出しても、貸主側の必要性と借主側の事情を比べて判断されるため、立退料の支払いが前提になることもあります。子が三年後に住むかもしれない、という程度の見込みでは明け渡してもらえると考えないほうが安全です。
貸している間に売りたくなった場合は、借主がいる状態のまま売る形になります。買う側は自分で住めないため、投資として買う人が相手になり、賃料から利回りを計算して価格を出します。自分で住みたい人が買う場合の価格とは、値の付け方そのものが違います。数年のうちに売る可能性が残っているなら、期間を区切った契約にしておくか、売却の検討を先にするかの分かれ道になります。
相続した家を売るときの譲渡所得については、一定の要件を満たす場合に控除を受けられる制度があります。この制度には、相続のときから売るときまでの間に事業や貸付けや居住の用に使われていないこと、という趣旨の要件が含まれています。つまり、貸すという選択が制度の適用に影響する場合があります。自分の家が要件に当てはまるかどうかと適用の可否は、必ず税理士か税務署へ確認してください。
貸している最中に貸主が亡くなると、その家は借主が入ったまま相続の対象になります。貸主としての立場も引き継がれ、預かっている敷金を返す義務も一緒に移ります。相続人が複数いると、住む人のいる家をどう分けるかで話が止まりやすく、売って分けるという解決も借主がいる分だけ選びにくくなります。誰に引き継ぐつもりなのかを、貸し始める段階で家族へ伝えておいてください。
家賃が入らなくなったとき、鍵を替える、荷物を運び出すといった対応は取れません。保証会社が付いていれば立て替えの手続きが進みますが、出て行ってもらうには最終的に裁判の手続きが必要で、時間も費用もかかります。入居審査の段階で保証会社の利用と緊急時の連絡先を条件にしておくこと、入金を毎月自分で確認する仕組みを作っておくことが、実務的な備えになります。
建物の設置や管理に不備があって人に損害が出た場合、所有者が責任を問われることがあります。道路際のブロック塀、ずれた瓦、傾いた庭木、朽ちた木製の門扉。空き家のうちは自分だけの問題でも、人が住み、その前を近隣の方が毎日通るようになると意味が変わります。貸す前に外まわりを一周し、落ちる可能性のあるものと倒れる可能性のあるものを先に片付けてください。
地区との関係も引き継がれます。自治会費を誰が払うのか、ごみの集積所の当番はどうするのか、農業用の水路の掃除に出るのかどうか。細い道に面した家では、来客の駐車が近所との摩擦になりやすい。入居者が自治会に入るのかどうかを含めて、地区の役員へ事前に話を通しておくと、入居後の連絡が貸主のところへ集中せずに済みます。ここは契約書には書ききれない部分です。
貸し終わったあとのことも、一度は思い描いておいてください。借主が出ていけば、家はまた空き家に戻ります。人が住んでいた分だけ設備は消耗し、次の募集を出すなら給湯器や内装の手直しが必要になることも多い。そのときに、もう一度貸すのか、そこで売るのか、家族の誰かが使うのかを判断する場面が来ます。退去の連絡は一か月ほど前に届くのが一般的なので、その短い間で決められるよう、判断の材料を契約が続いているうちから更新しておくと慌てずに済みます。
最後に、終わらせる条件を紙へ書いておきます。何年貸すのか、家族の誰かが使いたいと言い出したらどうするのか、修繕の費用が年間いくらを超えたら売却へ切り替えるのか、賃料が想定を何割下回ったら条件を見直すのか。この四つを決めずに募集を始めると、判断の材料が毎月の入金額だけになります。年に一度、同じ紙を開いて置き直す日を、契約の更新時期とは別に決めてください。
- 普通借家では貸主から簡単に終わらせられないことを家族で共有する
- 数年内に売る可能性があるなら、契約の型を決める前に税理士へ聞く
- 貸主が亡くなった場合に立場を継ぐ人を、貸し始める前に決める
- ブロック塀・瓦・庭木・門扉を、募集前に一周して点検する
- 自治会・ごみ・水路の当番の扱いを、地区の役員へ先に相談する
| 起こりうること | 先に決めておくこと | 確かめる先 |
|---|---|---|
| 家族が使いたいと言い出す | 契約の型と期間。定期借家にするかどうか | 賃貸の仲介・司法書士 |
| 売りたくなる | 借主がいる状態での売却を受け入れるかどうか | 不動産会社・税理士 |
| 税の特例の要件に触れる | 貸すことが適用に影響しないかを先に確かめる | 税理士・税務署 |
| 家賃が入らなくなる | 保証会社の利用と、入金を確認する担当者 | 仲介会社・保証会社 |
| 貸主が亡くなる | 誰が貸主の立場を継ぐか、敷金の返還はどうなるか | 司法書士・家族 |
| 外構や庭木で事故が起きる | 貸す前の点検範囲と、修繕を判断する人 | 工務店・保険の代理店 |
図3将来の予定と建物の状態で、貸し方を仕分ける
このページ固有の確認メモ
ここからは「親の実家を貸せる?賃貸募集の前に確認する名義・修繕・設備」で特に確認したい内容を、事実、避けたい判断、手元資料に分けて示します。すべてを一度に終える必要はありません。確認できた項目には日付と根拠を添え、分からない項目には担当者と再確認日を付けてください。家族が別々の時間に作業しても、同じ一覧へ戻れる状態を目指します。
確認しておく事実
この欄は、方針を決める前に共有したい事実です。家族の記憶だけで確定せず、通知書、契約書、公式ページ、撮影日が分かる写真など、確認に使った根拠を隣へ書きます。該当しない項目も削除せず「該当なし」とした理由を残すと、後から同じ調査を繰り返さずに済みます。
- 貸主になれる人は登記で決まる。片付けの進み具合とは関係がない
- 共有名義は、貸す期間と内容によって必要な同意の範囲が変わる
- 設備は部屋単位ではなく、給湯・浴室・排水・電気の単位で数える
- 見積書は総額ではなく、必須・賃料に効く・資産保全の三つに仕分ける
- 家賃は相場からではなく、管理料と空室を引いた手取りから逆算する
- 普通借家では、貸主の都合だけで返してもらうことはできない
- 貸すという選択が、売るときの税の特例に影響する場合がある
避けたい判断
この欄に当てはまる可能性があるときは、契約や処分をいったん止めます。一般例を対象の家へ当てはめたのか、資料で確かめたのかを区別し、不足情報を質問へ直してください。法務、税務、測量、建物、行政など別分野の判断が必要なら、回答できる相談先へ切り分けます。
- 貸主が確定する前に工事を発注し、支払った人と契約者が食い違う
- 内装から先に直し、あとから雨漏りが見つかって貼り替えになる
- 浄化槽の点検・清掃・検査の負担者を契約書に書かないまま貸す
- 一式とだけ書かれた見積書のまま契約し、着工後に追加が積み上がる
- 数年後に家族が使う前提なのに、更新のある契約で貸してしまう
- 残置物を物置に残したまま貸し、あとで持ち出しの話が紛糾する
- 空き家の譲渡所得の特例を確かめないまま賃貸を始める
手元で探すもの
見つけた資料には名称、発行年、原本の保管者を記します。古い資料も経緯を知る手掛かりになるため、最新版と違うだけで捨てないでください。見つからない場合は空欄にせず、再取得できるか、誰に所在を尋ねるか、いつ再確認するかを決めると次の相談準備になります。
- 土地と建物の登記事項証明書(甲区・乙区・表題部)
- 共有者の一覧と持分、連絡が取れない人の有無
- 委任状の範囲(募集・契約・賃料受領のどこまでか)
- 給湯器の製造年とガスの種類
- 排水の方式と、浄化槽の年間維持費
- 契約している電気容量と分電盤の回路数
- 建てられた年(旧耐震かどうか)と建築確認の書類
- 床下・小屋裏の点検結果(雨漏り・白蟻)
- 貸すために必須の修繕の見積書(範囲をそろえたもの)
- 手取り家賃の試算(管理料・税・保険・空室分を控除)
- 契約の型(普通借家か定期借家か)と期間
- 終わらせる条件と、年に一度の見直し日
よくある質問
親が施設に入っていて名義も親のままです。子の判断で貸せますか
親に契約の内容を理解する力があるうちは、親が貸主となり、子は委任状の範囲で窓口を担う形が基本です。判断が難しくなっている場合、子が代わりに署名して契約を成立させることはできません。成年後見の制度を使う道はありますが、本人の居住用の不動産については家庭裁判所の許可を要する取扱いがあり、貸す行為がどこまで含まれるかは事情によって分かれます。募集を出す前に司法書士や弁護士へ現状を示してください。
きょうだいの共有名義でも貸せますか
貸すこと自体は可能ですが、持分の過半数で決められる範囲に入るのか、共有者全員の同意が要る範囲に入るのかは、契約の期間や内容によって扱いが変わります。期間を決める前に司法書士へ相談し、同意を取るときは期間と賃料の分け方を書いた書面を残してください。連絡の取れない共有者がいる場合は、その時点で手続きの道筋が変わるため、先に洗い出しておくことをお勧めします。
どこまで直せば募集を出せますか
給湯、排水、電気、そして雨漏りが止まっていること。この四つが最低線で、ここは金額に関わらず先に手を入れます。浴室や内装は、直すと決まりやすくなる一方で費用も大きいため、改修費を手取りの家賃で割って何か月で戻るかを見て決めます。工事費を先に出す余裕が無ければ、現状のまま賃料を下げて募集し、入居者が自分で手を入れることを認める貸し方もあります。
数年後に子が住むかもしれません。それでも貸して大丈夫ですか
更新のある普通借家では、貸主の側から契約を終わらせるのに正当な事由が必要とされ、立退料が前提になることもあります。使う時期が見えているなら、期間が来たら終わる定期借家を検討してください。定期借家は、更新が無い契約であることを契約書とは別の書面であらかじめ説明する手順が原則として必要なので、その扱いに慣れた仲介会社かどうかを先に確かめます。
貸すと、売るときの税の特例が使えなくなると聞きました
相続した家を売るときの譲渡所得について控除を受けられる制度があり、その要件のなかに、相続のときから売るときまでの間に事業や貸付けや居住の用に使われていないこと、という趣旨の定めが含まれています。貸すという選択が適用に影響する場合があるということです。金額の大きい論点なので、貸すと決める前に、国税庁の該当ページを手元に置いて税理士か税務署へ確認してください。
遠方に住んでいます。管理はどうすればよいですか
毎月の集金と入居者からの連絡を管理会社へ任せる形が現実的です。会社が借り上げて転貸する形もありますが、賃料を見直す条項の内容で数年後の手取りが変わるため、その条項は自分で読んでください。いずれの形でも、給湯器の故障や台風のあとの雨漏りなど、判断を求められる場面は必ず来ます。誰が現地へ行けるのか、代わりに動ける人がいるのかを先に決めておくと安心です。
公式出典・確認先
制度や受付条件は変わることがあります。最終判断の前に、リンク先の最新情報と担当窓口を確認してください。
- ふじがおか実家カルテ|住所で分かること(fudosan.atawi.link)カルテで整理する範囲と、現地・専門家確認が必要な範囲を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続登記の申請義務化について(www.moj.go.jp)相続登記の基本的義務、遺産分割成立後の追加的義務、経過措置を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続人申告登記について(www.moj.go.jp)遺産分割がまとまらない場合の申告登記と必要書類を確認確認日:2026-08-27
- 国土交通省|空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報(www.mlit.go.jp)管理不全空家等・特定空家等に関する制度と指針を確認確認日:2026-08-27
- 国土交通省|空き家対策 特設サイト(www.mlit.go.jp)管理不全空家制度の概要と所有者が行う管理の考え方を確認確認日:2026-08-27
- 国税庁|被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(www.nta.go.jp)適用期間、対象家屋、相続人数による控除限度額等を確認確認日:2026-08-27

