がけ・土砂災害警戒区域にある実家|黄色と赤の違いから確かめる
実家の裏がすぐ斜面になっている。市から配られた地図を開いたら、敷地の一部が黄色く塗られていた。よく見ると、家の建っているあたりだけ赤い網がかかっている——。土砂災害警戒区域という言葉を家族が調べ始めるのは、たいてい親の入院や相続がきっかけです。ここで先に押さえておきたいことが二つあります。ひとつは、黄色と赤では課される内容がまるで違うということ。もうひとつは、区域に入っていること自体は、住めないことも売れないことも意味しないということです。このページでは、指定の意味を読み分ける方法、県と市と国の資料をどの順で集めるか、建て替えと売却で何が変わるか、空き家のまま持つあいだ何を見ておくかを順に整理します。自分たちで結論を出せない部分は、どの窓口や専門家へ渡すのかまで書きます。

まず結論
最初にすることは、区域の名前を正しく読み分けることです。土砂災害警戒区域(黄色)は避難と説明の区域、特別警戒区域(赤)は建築と開発に規制がかかる区域で、根拠は同じ法律でも効果が違います。次に、県の指定図・市のハザードマップ・現地の三つを、版と日付ごと控える。建て替えができるかは建築の窓口、斜面に手を入れてよいかは砂防の窓口と、聞く相手も分かれます。売却の説明義務は黄色でも生じます。価格を考えるのはいちばん最後、解体はそのさらに後です。
黄色と赤を読み分ける — 同じ法律でも効果が違う
土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域は、どちらも同じ法律にもとづく指定ですが、住む人と土地に及ぶ効果はまったく別です。実家がどちらなのか、あるいは敷地の中で両方が重なっているのかを見分けるところから始めます。
根拠になっているのは、土砂災害防止法(正式には、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)です。都道府県が基礎調査を行い、地形や地質、斜面の高さ、想定される土砂の到達範囲などを踏まえて、知事が区域を指定します。市町村が独自に決めているものではないため、市役所で聞いても「県の指定です」と案内される場面が出てきます。誰が指定した情報なのかを最初に分けておくと、後の照会先を間違えません。
対象になる現象は三つに分かれます。斜面が崩れる急傾斜地の崩壊、いわゆるがけ崩れ。渓流を土砂と水がまとまって流れ下る土石流。地面がゆっくり滑る地すべりです。それぞれ区域の形が違い、がけ崩れは斜面の足元へ扇形に、土石流は沢筋に沿って細長く伸びます。実家の裏に崖があるのか、上流に沢があるのかで、見るべき図が変わります。同じ敷地に二つの現象の区域が重なることもあります。
がけ崩れの調査では、傾斜度がおおむね三十度以上、高さがおおむね五メートル以上の斜面が対象として扱われる、という考え方が用いられています。ただし数値の当てはめは調査の運用によるため、実家の裏の土手がこれに当たるかを目分量で決めないでください。「三十度もないから関係ない」と家族で判断してしまい、後から指定図を見たら区域内だった、という取り違えが起きやすいところです。
黄色、すなわち土砂災害警戒区域は、土砂災害が発生した場合に住民の生命または身体に危害が生ずるおそれがあるとして指定される区域です。ここで求められるのは主に備えのほうで、市町村による警戒避難体制の整備、ハザードマップの作成と配布、要配慮者が利用する施設の避難確保計画などが関わります。土地の使い方そのものへの規制は、原則としてかかりません。ただし後述するとおり、売買のときの説明対象にはなります。
赤、すなわち土砂災害特別警戒区域は、建築物に損壊が生じ、住民の生命または身体に著しい危害が生ずるおそれがあるとして指定される区域です。こちらには実際の規制が伴います。住宅の宅地分譲や社会福祉施設・学校・医療施設のための特定開発行為には知事の許可が必要とされ、居室を有する建築物には、想定される土石等の力に対して安全な構造とする規制がかかり、建築確認の中で審査されます。さらに、著しい損壊のおそれがある既存の建物には、移転等の勧告という仕組みも置かれています。
ここで誤解が生まれます。赤に入っていても、いま建っている家に住み続けることや、その家を貸すこと、売ることが法律で禁じられるわけではありません。制限が働くのは、主に新しく建てる、建て替える、大きく増改築する、あるいは宅地として分けて売り出すといった行為の場面です。「赤だから何もできない」と早合点して片付けや解体へ走ると、取り返しのつかない順番になります。まず、何が制限され、何は制限されないのかを紙の上で分けてください。
指定は固定されたものではありません。基礎調査は順次進められ、区域が新しく指定されたり、範囲が変更されたりします。親が家を建てた当時は何の指定もなかったのに、いま図を見ると敷地の裏半分が黄色い、ということは珍しくありません。だから「昔役所で聞いたから大丈夫」という記憶は根拠になりません。確認するときは、指定の年月日と、根拠になった図面の版、そして自分が見た日を必ずセットで控えてください。
紛らわしいのは、似た名前の別制度がいくつも重なっていることです。急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律にもとづく急傾斜地崩壊危険区域は、切土や盛土、立木の伐採、工作物の設置といった行為に知事の許可を求める区域で、指定の目的も効果も土砂災害防止法とは別です。加えて、建築基準法にもとづく都道府県の条例に、がけの上端や下端からの距離に応じた制限、いわゆる「がけ条例」と呼ばれる規定が置かれていることがあります。さらに盛土規制法の区域も別に指定されます。名前が似ているものほど、根拠法と担当窓口を並べて書き分けるのが確実です。
この章でやるのは判断ではなく仕分けです。実家の敷地は黄色か、赤か、両方か。どの現象の区域か。指定はいつか。この四つを埋めるだけで、次に誰へ何を聞くかが決まります。答えを自分たちで出す必要はありません。県の砂防を担当する出先機関と、市の防災を担当する課、そして建築を担当する窓口の三つを、混ぜずに使い分けることが第一歩になります。
- 敷地が警戒区域(黄色)か特別警戒区域(赤)か、両方が重なるかを確かめる
- 対象の現象が、がけ崩れ・土石流・地すべりのどれかを控える
- 指定の年月日と、根拠になった区域図の版を書き留める
- 急傾斜地崩壊危険区域など、別制度の指定が重なっていないかを確かめる
- 回答をくれた窓口の名称と担当分野、聞いた日付を記録に残す
図1区域指定を確かめる五つの段
県・市・国の資料を、版と日付ごと集める
ハザードの情報は、国・県・市町でそれぞれ目的も精度も違うものが公開されています。どれか一つを見て終わらせず、三つの層と現地を突き合わせるのが、後戻りの少ないやり方です。
いちばん外側にあるのが、国が運営する、複数の災害情報を一枚の地図に重ねて見られる仕組みです。土砂災害の区域だけでなく、洪水の浸水想定、津波、道路の冠水想定などを同時に表示できるため、実家の置かれた状況を俯瞰するのに向いています。ただし全国を同じ画面で扱う都合上、細かな敷地の境目まで読み取る用途には向きません。ここで見るのは「どの種類のリスクが関わるか」までです。
その内側にあるのが、静岡県が公開している土砂災害警戒区域等の指定情報です。指定の主体が県ですから、区域の種別、対象の現象、指定の告示に関する情報は県が持っています。地図上の表示だけでなく、区域図の写しを求められるかどうか、手数料が要るかどうかは、県の砂防を担当する出先機関へ直接尋ねるのが早道です。市役所の窓口でも位置の確認には応じてもらえますが、指定の内容そのものは県が根拠になります。
いちばん内側が、市町のハザードマップです。磐田市であれば、大雨への備えを案内するページから洪水や土砂災害の地図、避難所の一覧へたどれます。市の地図の値打ちは、避難行動と結びついている点にあります。どの避難所へ、どの道を通って行くのか。その避難所自体が浸水想定の中にないか。斜面のそばの実家では、土砂と洪水の二枚を重ねて初めて、実際に取れる行動が見えてきます。
資料を集めるときにつまずきやすいのが、住所と地番の違いです。区域の線は行政区画ではなく地形に沿って引かれるので、一つの敷地の中で塗り分けが変わります。裏の斜面側だけが赤で、道路側は指定なし、という形はよくあります。だから「実家は区域内ですか」という聞き方ではなく、地番と公図を示して「この筆のどの部分がどの区域か」と尋ねてください。地番は、固定資産税の納税通知書に付いてくる課税明細か、法務局で取る登記事項証明書で確かめられます。
現地では、資料に載っていないものを見ます。がけの高さと傾きのおおよそ、斜面が土か岩か、擁壁があるならその種類、水抜き穴が土で詰まっていないか、擁壁の面がはらんでいないか、ひび割れがどの向きに走っているか。斜面の上から雨水がどこを通って落ちてくるか。竹が茂っていないか。前に補修した跡があるか。写真は、全体が入る引きと、傷んだ箇所の寄りの両方を撮り、寄りの写真にはメジャーか手のひらを一緒に写して大きさが分かるようにします。
斜面が誰のものかも、早いうちに確かめておきたい点です。がけの上に建つ実家なのか、がけの下に建つ実家なのかで立場が変わりますし、斜面そのものが隣地や法定外公共物であることもあります。擁壁が境界のどちら側に据えられているかによって、傷んだときに誰が直すのかという話の出発点が変わります。公図と登記事項証明書で、斜面部分の地番と所有者を押さえてください。書面請求の手数料は、登記事項証明書が一通六百円、公図や地積測量図が一通四百五十円という水準で案内されています。額は改定されることがあるため、請求前に法務局の案内で確かめてください。
集めた資料は、そのまま袋に入れておくと後で使えません。資料の名称、発行元、基準日、自分が取得した日、そこから分かったこと、分からなかったことを一行ずつ並べます。とくに地図類は版が更新されるため、基準日のない写しは根拠として弱くなります。家族の誰かが後から加わったときや、宅建業者や建築士へ渡すときに、この一覧がそのまま説明の材料になります。
- 地番と公図で、敷地のどの部分がどの区域かを特定する
- 県の指定情報と市のハザードマップを別々に控え、混ぜない
- 土砂と洪水の二枚を重ね、避難所と経路の成否を見る
- 斜面と擁壁が載る筆の所有者を登記で確かめる
- すべての資料に発行元・基準日・取得日を書き添える
| 資料・確認事項 | 分かること | 主な入手先・確認先 |
|---|---|---|
| 土砂災害警戒区域等の指定情報 | 区域の種別(黄色・赤)、対象の現象、指定の年月日 | 静岡県の砂防を担当する出先機関、県公表の地図 |
| 市町のハザードマップ | 避難所と経路、洪水浸水想定との重なり、警戒レベルの運用 | 市の防災を担当する課、市の公式サイト |
| 急傾斜地崩壊危険区域の指定の有無 | 斜面での切土・盛土・伐採・工作物設置に許可が要るか | 県の砂防担当(市の担当課経由で案内される場合もある) |
| 建築基準法にもとづく条例のがけの規定 | がけの上端・下端からの距離に応じた制限や擁壁の扱い | 建築確認を所管する窓口(市または県の出先) |
| 公図・登記事項証明書(斜面部分を含む) | 斜面や擁壁の載る筆の地番、所有者、共有か単独か | 法務局(窓口・郵送・オンライン請求、地番が必要) |
| 擁壁の築造に関する書類 | 築造年、確認済証や検査済証の有無、宅地造成の許可履歴 | 家族の手元、施工業者、所管する行政の窓口 |
建て替えの制限と、使える支援の枠組みを分ける
赤の区域で問題になるのは、主に建てるときと、斜面に手を入れるときです。制限をかける相手と、支援を出す相手は同じではないため、聞く順番を決めてから動きます。
特別警戒区域で建て替えを考える場合、居室のある建物には、想定される土石等の力に対して安全な構造とすることが求められ、その内容は建築確認の中で審査されます。斜面に面する側の壁を鉄筋コンクリート造にする、あるいは建物の手前に土砂を受け止める待受け擁壁を設ける、といった対応が典型です。当然、設計にも工事費にも上乗せが出ます。どの程度の上乗せになるかは、想定される土砂の力と敷地の形で大きく変わるため、一般的な相場で見積もらず、建築士に敷地を見せたうえで概算を出してもらってください。
敷地を分けて売る計画があるなら、話は建築だけで終わりません。特別警戒区域内で住宅の宅地分譲などを目的とする一定の開発行為には、知事の許可が必要とされています。実家一軒の建て替えなら通常この枠には入りませんが、庭を割って二区画にする、隣地とまとめて造成するといった構想が出てきた時点で、県への事前相談が必要になります。図面を描き始める前に、成立するかどうかを先に確かめるほうが結果的に安く済みます。
既存の建物については、著しい損壊が生じるおそれがあると認められる場合に、移転等の勧告という仕組みが用意されています。勧告を受けたときの支援として、危険な住宅の移転を対象にした国の補助の枠組みや、住宅金融支援機構による融資の仕組みが知られています。ただし、こうした補助を市町が実施しているかどうか、要件をどう定めているかは自治体ごとに異なります。制度の名前を先に持ち出さず、「うちの市で使える支援はありますか」と担当窓口へ尋ねるのが確実です。
土砂災害防止法とは別に、建築基準法にもとづく都道府県の条例で、がけの近くに建てる場合の規定が置かれていることがあります。がけの上端や下端から一定の距離の範囲に建物を建てるときに、擁壁の設置や建物側の措置を求める、という考え方です。この規定は区域の指定とは無関係に働くため、黄色でも指定なしでも、がけが近ければ関わってきます。実家の斜面がこの規定の対象になるかは、建築確認を所管する窓口へ、断面の分かる写真と敷地の位置を示して尋ねてください。
斜面そのものに手を入れる話になると、相手がまた変わります。急傾斜地崩壊危険区域に指定されている場所では、切土や盛土、立木の伐採、水を放流する施設の設置、工作物の設置といった行為に知事の許可が必要とされています。竹が伸びて困るから切りたい、水路を付け替えたい、といった素朴な希望が、そのまま許可の対象になり得るということです。良かれと思って重機を入れる前に、県の砂防担当へ「この作業は許可が要りますか」と一本入れてください。
斜面の対策工事を行政にやってもらえないか、という相談もよくあります。県が行う急傾斜地の崩壊対策の事業には、斜面の規模や、その斜面によって守られる人家の戸数といった要件があり、加えて地元の同意や用地の提供が前提になります。個人の希望だけで動くものではなく、自治会や市を通じて県へ要望が上がっていく流れが一般的です。時間もかかります。売却や建て替えの日程を、この事業の実現を前提に組まないでください。
盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)にも触れておきます。この法律にもとづく区域が指定されると、一定規模以上の盛土や切土に許可が必要になり、既存の擁壁について是正を求められる場面も出てきます。区域の指定状況は県や市が公表しますが、指定の範囲は土砂災害の区域とは一致しません。斜面地の実家では、土砂災害の区域、急傾斜地の区域、盛土規制の区域、条例のがけの規定という四つを、それぞれ別の欄に書いて確かめるのが安全です。
行政へ相談に行くときの持ち物も決めておくと一度で済みます。地番の分かるもの(課税明細か登記事項証明書)、公図の写し、敷地と斜面が写った現地写真を数枚、そして聞きたいことを箇条書きにした紙。窓口では「どうしたらいいですか」ではなく、「この地番のこの部分は何の区域か」「この規模の増築に確認申請は要るか」「この作業に許可は要るか」と、答えの形が決まる聞き方をします。回答をくれた方の所属と担当分野、聞いた日付をその場で書き留めてください。担当が替わったときに、話を最初からやり直さずに済みます。
費用の考え方も整理しておきます。擁壁の新設や補修、待受け壁の設置は、斜面の高さ、土質、重機が入れるかどうか、仮設の足場が要るかどうかで金額が何倍も変わります。この記事で相場を示すことはできません。できるのは、複数の業者から見積もりを取ること、設計と施工を分けて考えること、そして工事に入る前に、その工事自体に許可が要らないかを行政へ確かめることです。順番を逆にすると、工事をやり直すことになりかねません。
- 建て替えの構造上の扱いを、建築確認を所管する窓口へ確かめる
- 敷地を分ける構想がある場合は、着手前に県へ事前相談する
- 移転や改修に使える市町の支援があるかを、制度名を出さずに尋ねる
- 斜面での伐採・切土・工作物設置に許可が要るかを砂防担当へ聞く
- 工事の見積もりは複数取り、許可の要否を確かめてから発注する
図2斜面のある実家をめぐる四つの相手
売るときに説明すべきこと、隠すと壊れること
土砂災害警戒区域内であることは、宅地建物取引業法にもとづく重要事項説明の対象とされています。黄色でも説明は生じます。売主の側でやるべきは、隠すことではなく、説明できる状態に資料をそろえることです。
宅地建物取引業者が売買を仲介する場合、契約の前に行う重要事項説明の中で、対象の物件が土砂災害警戒区域内にあるときはその旨を説明することとされています。造成宅地防災区域や津波災害警戒区域についても同様の扱いがあり、加えて、水害のハザードマップにおいて物件がどこに位置するかを示す説明も求められるようになっています。つまり、指定を知っている宅建業者であれば必ず触れる事項であり、売主が黙っていても契約前に表に出ます。
説明の責任は仲介する業者が負いますが、その説明の裏づけになる資料は売主側が持っていることが多いのが実情です。区域の種別、指定の年月日、根拠になった図の版、擁壁に関する書類、過去の被災の記憶。これらを整理して渡せるかどうかで、話の進み方が変わります。逆に、業者から尋ねられて「よく分かりません」を繰り返すと、買主側の不安が価格の交渉材料になります。
赤の区域が敷地にかかっている場合、影響は説明にとどまりません。建て替えのときに構造上の対応が要るということは、買主にとって将来の費用です。住宅ローンを扱う金融機関の判断や、火災保険で土砂災害に関わる補償がどう設計されるかも関わってきます。ただしこれらは金融機関や保険会社ごとに扱いが異なり、商品や約款によっても変わるため、この記事で一律の結論は書けません。買主が付いた段階で、それぞれに確かめてもらう事項として整理しておいてください。
売主が用意する書類のひとつに、物件状況報告書、いわゆる告知書があります。これは建物や土地の状態について、売主が知っていることを書いて渡す書面です。斜面のある実家では、過去に土砂が敷地へ流れ込んだこと、擁壁を補修したこと、大雨のたびに水が出る場所があること、床下に水が入ったことなどが記載の候補になります。記憶があいまいなら「◯年ごろ、程度は不明」と書けばよく、書かないより書くほうが安全です。
書かなかった場合に何が起きるか。引渡し後に買主が事実を知ると、契約不適合の主張や、説明義務をめぐる争いに発展することがあります。斜面や擁壁の問題は、大雨のたびに再発するため隠し通せません。近隣に聞けば分かる話でもあります。実務で見るのは、指定を伏せたまま売り出し、買主側の調査で赤の指定が判明して契約が白紙に戻る、という形の失敗です。時間も、次の買い手からの信用も失います。
擁壁に関する資料は、あるに越したことはありませんが、古い住宅ではまず見つかりません。築造年、確認済証や検査済証、宅地造成に関する許可の履歴、施工した業者名。どれも不明であれば「不明」と書きます。不明であること自体は減点ではなく、確かめていないのに「大丈夫です」と口頭で保証してしまうことが問題になります。安全性の判断は建築士や擁壁の調査を扱う技術者の領域であり、家族や宅建業者が断定してよい事柄ではありません。
相続がからむなら、名義を先に整えます。相続によって不動産を取得したことを知った日から三年以内に相続登記を申請することが義務づけられ、正当な理由なく怠った場合には過料の定めがあります。遺産分割の話し合いがまとまらないときのために、相続人であることを申し出る簡易な手続きも用意されています。必要書類や自分の場合の当てはめは、法務局の案内を確かめるか、司法書士へ相談してください。名義が親のままでは、売買の話が具体化しても契約に進めません。
説明のための一式は、早い段階でひとつの袋にまとめてしまうのが実務的です。区域の種別と指定内容が分かる資料、市のハザードマップのうち実家が載っている面、公図と登記事項証明書、地積測量図があればその写し、擁壁の写真と手元にある書類、物件状況報告書の下書き、そして固定資産税の課税明細。この束があれば、複数の宅建業者へ同じ条件で相談でき、返ってくる意見の違いが資料の差ではなく判断の差だと分かります。買主が現れてからそろえ始めると、待たせている間に話が冷めます。
価格の話は、これらがそろってから最後に置きます。区域指定があるから必ず安くなる、と決めつける必要はありません。斜面の向き、擁壁の状態、建て替えの余地、周辺の相場、買主の使い道によって結果は分かれます。そして解体は、さらにその後です。建物を取り壊すと、住宅用地に対する固定資産税の特例が外れる取扱いがあり、翌年からの負担が変わります。更地にしても建築上の制限は残るため、先に壊す理由はほとんどありません。
- 区域の種別と指定年月日を、資料の写しとともに手元にそろえる
- 物件状況報告書に、土砂の流入や擁壁の補修の履歴を書き出す
- 擁壁の書類が無い場合は「不明」と記し、口頭で安全を保証しない
- 相続登記の状況を確かめ、名義を売却の前に整える
- 解体と価格の決定は、建築の可否と擁壁の判断が出た後に回す
空き家のまま持つあいだの管理と、出口の比べ方
斜面のそばの空き家は、傷みが自分の敷地の外へ出ていきやすい種類の空き家です。管理でやることを絞り込み、そのうえで出口を比べます。
斜面まわりの管理は、突き詰めると水と木の二つです。擁壁の水抜き穴が土や落ち葉で詰まっていないか。斜面の上から流れてくる雨水が、どこを通ってどこへ抜けているか。排水溝に土砂がたまっていないか。遠州は台風の通り道にあたり、夏から秋にかけて強い雨がまとまって降ります。冬には空っ風で落ち葉が集まり、春先の雨で溝を塞ぎます。季節ごとに詰まり方が違うので、見に行く時期を年に何回か決めてしまうのが現実的です。
擁壁を見るときの手がかりは決まっています。面が前へふくらんでいないか、ブロックの目地がずれていないか、ひび割れがどの向きに何本走っているか、水抜き穴から土が出ていないか、天端の笠木が割れていないか。判断は難しくても、記録は誰にでもできます。毎回同じ場所に立ち、同じ画角で撮ると、変化があったときに比べられます。撮った写真はその場で日付の分かる形にして残してください。変化が見えたら、建築士や擁壁の調査を扱う事業者へ写真を先に送ると話が早く進みます。
斜面の竹や樹木は悩ましいところです。放っておけば伸び、繁茂すれば見通しも悪くなります。ただし前章のとおり、急傾斜地崩壊危険区域では立木の伐採が許可の対象とされています。伐採が状況を良くするか悪くするかも、斜面の土質や根の張り方によって変わり、素人判断が効きません。気になったら、まず砂防の担当へ「この斜面で竹を切るのに許可が要りますか」と確かめる。順番はこれだけで十分です。
自分の斜面から土砂が隣地や道路へ出た場合、責任の話が出てきます。民法には、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害を生じさせたときの責任に関する定めがあり、擁壁もこの工作物に当たり得ると扱われます。当てはまるかどうかは個別の事情によるため、実際に被害が出たとき、あるいは隣家から申し入れがあったときは、放置せず弁護士や保険会社へ早めに相談してください。空き家の火災保険や賠償の特約が使えるかも、契約の内容によって変わります。
大雨のときにどう動くかも、空き家であっても決めておきます。避難に関する情報は警戒レベルという段階で示され、土砂災害の危険度は気象庁が地図の形で公表しています。空き家に人はいませんが、隣家には人がいます。斜面の下に他人の住まいがあるなら、大雨の前後で自分の敷地に異状がないかを誰が見るのか、異状があったときに誰へ連絡するのかを、家族と近隣のあいだで一度だけ決めておいてください。実家に住んでいたころの近所付き合いが残っているうちにやっておくと、後から頼みやすくなります。
空き家であること自体にも、行政の目が向くようになりました。空家等対策の推進に関する特別措置法では、そのまま放置すれば著しく保安上危険となるおそれのある状態などを特定空家等として扱う仕組みがあり、加えて、そうなるおそれのある状態を管理不全空家等として、助言・指導や勧告の対象とする改正が行われています。勧告を受けると、住宅用地に対する固定資産税の特例が適用されなくなる取扱いがあります。斜面のそばの空き家は、周辺への危険が外から見えやすいぶん、この流れに乗りやすい性質があります。
遠方に住んでいる場合の管理は、頻度ではなく仕組みで考えます。近所の方へ挨拶をして連絡先を渡しておく、鍵の置き場所を家族で決めておく、大雨や台風の後に写真を送ってもらえる相手を確保する、有料の巡回点検を頼む。どれも完璧ではありませんが、何も決めずに半年空けるよりはるかにましです。通える距離かどうかで、選べる出口も変わってきます。
出口の候補を並べておきます。誰かが住み継ぐ。貸す。現況のまま売る。斜面の上または下の隣接地の所有者へ売る。擁壁の補修や対策工事をしてから売る。建物を解体して土地として売る。それぞれ前提条件が違い、赤の指定がかかっているか、擁壁が健全か、名義が整っているか、通える距離かによって、成り立つものと成り立たないものが分かれます。
決める順番は変えないでください。区域の種別と指定内容、建て替えができるかどうか、擁壁の状態、名義、費用、そして最後に出口。この並びを飛ばして先に解体や工事を決めると、必ず戻ってやり直すことになります。斜面は動きませんが、指定は更新され、擁壁は年ごとに傷みます。今年確かめた内容には日付を付け、数年空いたら同じ順番でもう一度なぞる。それが、遠くにある斜面地の実家との付き合い方です。
- 水抜き穴と排水溝の詰まりを、季節ごとに決めた回で確認する
- 擁壁は同じ位置・同じ画角で撮り、日付の分かる形で残す
- 斜面の伐採や切土は、許可の要否を砂防担当へ確かめてから行う
- 隣地や道路へ影響が出たときの連絡先と保険の内容を確かめる
- 出口を比べる前に、区域・建築の可否・擁壁・名義の四つを埋める
図3規制の重さと、通える距離で出口が分かれる
このページ固有の確認メモ
ここからは「がけ・土砂災害警戒区域にある実家|黄色と赤の違いから確かめる」で特に確認したい内容を、事実、避けたい判断、手元資料に分けて示します。すべてを一度に終える必要はありません。確認できた項目には日付と根拠を添え、分からない項目には担当者と再確認日を付けてください。家族が別々の時間に作業しても、同じ一覧へ戻れる状態を目指します。
確認しておく事実
この欄は、方針を決める前に共有したい事実です。家族の記憶だけで確定せず、通知書、契約書、公式ページ、撮影日が分かる写真など、確認に使った根拠を隣へ書きます。該当しない項目も削除せず「該当なし」とした理由を残すと、後から同じ調査を繰り返さずに済みます。
- 警戒区域(黄色)と特別警戒区域(赤)は根拠が同じでも効果が違う
- 区域の指定は県、避難とハザードマップは市町、建築の可否は建築の窓口
- 区域の線は地形に沿うため、敷地の一部だけが赤ということが起きる
- 指定は基礎調査の進行で追加・変更される。指定年月日と図の版を控える
- 急傾斜地崩壊危険区域では、伐採や切土に知事の許可が要るとされている
- 土砂災害警戒区域内であることは、売買時の重要事項説明の対象
- 解体は最後。更地にしても建築上の制限は残り、税の扱いも変わる
避けたい判断
この欄に当てはまる可能性があるときは、契約や処分をいったん止めます。一般例を対象の家へ当てはめたのか、資料で確かめたのかを区別し、不足情報を質問へ直してください。法務、税務、測量、建物、行政など別分野の判断が必要なら、回答できる相談先へ切り分けます。
- ハザードマップの色だけを見て、危険度や売却の可否を断定する
- 傾斜を目分量で測り、指定の対象外だと家族で決めてしまう
- 赤に指定されている事実を伏せたまま売りに出す
- 擁壁の書類が無いのに、口頭で「大丈夫」と買主へ伝える
- 許可の要否を確かめないまま、斜面の伐採や切土に着手する
- 名義を亡くなった親のままにして、売却の話を先に進める
- 行政の対策工事が実現する前提で、売却や建て替えの日程を組む
手元で探すもの
見つけた資料には名称、発行年、原本の保管者を記します。古い資料も経緯を知る手掛かりになるため、最新版と違うだけで捨てないでください。見つからない場合は空欄にせず、再取得できるか、誰に所在を尋ねるか、いつ再確認するかを決めると次の相談準備になります。
- 区域の種別(警戒区域・特別警戒区域・両方)
- 対象となる現象(がけ崩れ・土石流・地すべり)
- 指定の年月日と区域図の版
- 急傾斜地崩壊危険区域の指定の有無
- 建築基準法にもとづく条例のがけの規定の適用
- 盛土規制法にもとづく区域の指定状況
- 敷地内での区域の及ぶ範囲(地番・公図との対応)
- 斜面と擁壁が載る筆の地番と所有者
- 擁壁の築造年と関係書類の有無
- 過去の土砂流入・浸水・補修の履歴
- 洪水ハザードマップとの重なりと避難経路
- 実家の相続登記の状況
よくある質問
実家が土砂災害警戒区域に入っていると分かりました。もう売れないのでしょうか
区域内であることだけで売却ができなくなるわけではありません。警戒区域(黄色)は避難の備えと売買時の説明が中心で、土地の使い方への規制は原則としてかかりません。特別警戒区域(赤)では建てるときの規制が加わりますが、これも売買そのものを禁じるものではありません。まず区域の種別と指定内容を確かめ、説明できる資料をそろえるところから始めてください。
警戒区域と特別警戒区域は、何がどう違うのですか
根拠は同じ土砂災害防止法ですが、効果が違います。警戒区域は、土砂災害が起きた場合に住民に危害が生ずるおそれがある区域として、避難体制の整備やハザードマップの作成が中心になります。特別警戒区域は、建築物に損壊が生じ著しい危害が生ずるおそれがある区域として、居室のある建物の構造規制や一定の開発行為の許可、既存建物への移転等の勧告といった仕組みが伴います。個別の当てはめは県の砂防を担当する窓口へ確かめてください。
特別警戒区域でも建て替えはできますか
一律にできないと決まっているわけではなく、想定される土石等の力に対して安全な構造とすることが求められ、建築確認の中で審査されます。斜面側の壁を頑丈にする、待受け擁壁を設けるといった対応が必要になり、その分の費用がかかります。実現できるかと、いくらかかるかは敷地ごとに違うため、建築確認を所管する窓口への相談と、建築士による概算を並行して進めてください。
裏の斜面の竹が伸びて困っています。自分で切ってしまってよいですか
斜面が急傾斜地崩壊危険区域に指定されている場合、立木の伐採や切土、工作物の設置などは知事の許可の対象とされています。また、伐採が斜面の安定にとって良いか悪いかも、土質や根の張り方によって変わります。手を入れる前に、県の砂防を担当する窓口へ、作業の内容を具体的に伝えて許可の要否を確かめてください。斜面が自分の土地かどうかも、登記で先に確かめておくと確実です。
住所を伝えれば、区域指定や建て替えの可否は分かりますか
住所から分かるのは、確かめるべき項目と、それをどこへ聞けばよいかというところまでです。ただし区域の線は地形に沿って引かれるため、敷地のどの部分がどの区域かは地番と公図で位置を固定して初めて読み取れますし、建て替えの可否は行政の判断が要る事柄です。ふじがおか実家カルテは、その手前にある資料の整理と確認の順番を担う範囲で、許可、境界の確定、構造の診断を代替するものではありません。
擁壁が古そうです。まず何をすればよいですか
家族でできるのは、記録することまでです。面のふくらみ、目地のずれ、ひび割れの向きと本数、水抜き穴からの土砂の出方を、同じ位置から日付の分かる形で撮影してください。築造年や確認済証、宅地造成の許可の履歴が手元にあるかも確かめます。安全性の判断は建築士や擁壁の調査を扱う技術者の領域です。写真と書類の有無を先にそろえてから相談すると、話が早く進みます。
公式出典・確認先
制度や受付条件は変わることがあります。最終判断の前に、リンク先の最新情報と担当窓口を確認してください。
- ふじがおか実家カルテ|住所で分かること(fudosan.atawi.link)カルテで整理する範囲と、現地・専門家確認が必要な範囲を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続登記の申請義務化について(www.moj.go.jp)相続登記の基本的義務、遺産分割成立後の追加的義務、経過措置を確認確認日:2026-08-27
- 法務省|相続人申告登記について(www.moj.go.jp)遺産分割がまとまらない場合の申告登記と必要書類を確認確認日:2026-08-27
- 磐田市|大雨への備え(www.city.iwata.shizuoka.jp)磐田市ハザードマップ、洪水・冠水情報への公式入口を確認確認日:2026-08-27

